わたがし
「遅いわよ」
待たせるんじゃないわよと目が言っていた。
赤い扉を開けた先、大きな窓ガラスを背に座る女は机に肘をつき、足を組み替えた。
なんでこんなに待たせるんだと態度に出ていた。
「申し訳ございません」
すかさず走右が頭を垂れ、砕左も遅れてそれにならった。
それはいつものことであった。
日に日に我儘に拍車がかかる主人であるが、それも仕方のないこと。
従僕の自分達にしか、その権威を振うことができない哀れな女であった。
鬼として、彼女を守る立場について早16年。
彼女の為の双剣として役に立つことは、もうずいぶんなかった。
地位も名誉も、いつかは風化するもの。
かつてはこの地をおさめ、名を馳せていた名家の栄光も過去のモノ。
かろうじて体をなしているのは、血脈と屋敷の大きさくらいのものか。