囁きと蜜
遠くで誰かが叫んでいる。
膝で踏みつけた砂利がめり込んで、血が出ている。
跪いた足に雨粒が伝うのを無意味に眺めた。
昨日の夜から降り続いている雨は止む気配がない。
そんなことをぼんやり考えていた。
目の前に横たわる人の肩を抱いて、喉がやけに熱い。
嗚呼そうか。叫んでいるのは私自身だったのかと。焼ける様に痛い喉を感じて思った。
立ち上がる気力もない、幼子の様に叫ぶことしか出来ないとは哀れなものであった。
そんな、無意味な塊になり果てながらも、立ち上がれない。
「許さない!」
やっと意味のある言葉を紡いだのだろう、今まで獣の雄叫びの様に喚くしかしなかった為か。
背を向けた対象が緩やかに振り返った。
身の丈に合わない長すぎる刀身を引きずり、やけに疲れて見えた。