僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 理人(りひと)は私をお風呂場の(ひのき)の床にそっと降ろして座らせると、身体に優しくお湯をかけてくれる。

 私はすぐそばの理人の裸を見るのが恥ずかしくて、じっと床ばかりを見つめていた。

 流れていくお湯を目で追いながら、そういえば……と思う。

(初めてのときも、終わった後で理人は私の身体にお湯をかけてくれた気がする)

 いつもいつもしてもらってばかりで……なんだか申し訳ない、と思ってしまった。

「理人……私、も……」

 気がついたら、思わずそう言っていて。

「ん?」

 理人がお湯を汲む手を止めて私を見る。

 私はゆっくり立ち上がると、「私も……理人にお湯、かけてあげたい……」と訴えてみた。

 彼は一瞬瞳を見開いて私を見つめた後、にっこりと笑った。

「じゃあ、お願いしようかな」

 そう言って床に座る。

 私は彼の横にひざを付くと、理人から洗面器を受け取った。

 お湯を汲んで彼の肩を流し始めたら、理人が私の胸に手を伸ばしてきて――。

 いきなり敏感なところに触れられて、私の身体は水揚げされた魚みたいにビクンッと跳ねる。

「あんっ……」

 思わず漏れた嬌声(きょうせい)が、お風呂場の中で思いのほか反響した。

(やだ、恥ずかしいっ)

 洗面器を持つ手に思わず力が入った――。

葵咲(きさき)、おいで」

 と、理人に手を引っぱられて、私は洗面器を手にしたまま、彼の胸の中にすっぽり納まっていた。

 そうしておいて、理人は私の手から洗面器を取ると、それを床に置く。

「少しだけ、このまま……」
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