私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
曲づくり?
私をベッドに押し倒した藤崎さんはさっきより念入りに愛撫をするけど、肝心なところには敢えて触れないようにしてるみたい。気持ちいいけど、だんだん焦れてくる。
「藤崎さん……?」
我慢できずに訴えた。
藤崎さんは、ツーっと私の頬をなでて、意味深に笑った。
その表情を見て悟った。
(わざと焦らしてる!)
「……いじわるするなら、もう止めます!」
身体のほてりを無視して起き上がろうとすると、藤崎さんは慌てて「ごめん。もういじわるしない」と止める。
でも、その口でまた「そんなに僕がほしかったの?」と笑うから、私はむくれて彼を睨んだ。
「もう、藤崎さん! 言葉攻めもなし!」
私がそう言うと「つまんないなぁ」とつぶやくので、泣きそうになった。
どうせ私はつまんない女よ! 藤崎さんがふだん付き合ってるような人とは比べ物になるはずがないわ……。
目が潤むのをぐっとこらえて、抗議する。
「つまんないなら、私としなくていいじゃないですか……」
「そういうことじゃない!」
私の表情に気づいて、藤崎さんはまた焦った顔で私を抱きしめた。
藤崎さんは、抱きしめた手で髪をなで、顔のあちこちに何度も口づける。
私をなだめるように。
そんな甘いなぐさめ方をされたら、なにも言えなくなる……。
そう思ったら、藤崎さんがぽろりと洩らした。
「僕が欲しいって言わせたかっただけ。君は難しいね」
「……私がめんどくさい女だなんて、今さらですよ。やっぱり止めます?」
「いや、めんどくさいのがいいのかも」
藤崎さんは勝手なことを言って、また口づけると今度は本格的に愛撫を始めた。
♪♪♪
──本当に藤崎さんに抱かれた……。うそみたい。
彼は甘く甘く、素敵だった。本当に私を求めているかのようで、思い違いしないようにするのに必死になった。
譜道館でのいじわるはなんだったのかと思うほど、優しく抱いてくれた。
お互いの荒い息が治まるまでくっついていると、しばらくして藤崎さんが歌を口ずさみ始めた。
ワンフレーズ歌うと、くっと笑って、私を自分の上に乗せ、またキスをした。
「ははっ、最高だ」
歌いながら、チュッチュッとキスをして、くつくつと笑ってる。
ご機嫌な藤崎さんに、私も目を細めた。
新しい曲ができたらしい。
不思議だけど、私がいると作曲が進むのは本当らしい。
私のあちこちを弄りながら、歌を口ずさみ、満足したらしい藤崎さんは「シャワーにかかろうか」と私ごと身を起こした。
「おいで」
藤崎さんに腰を引き寄せられて、廊下に出た。
裸のままなのが恥ずかしくて、うつむいた。
「めんどくさいと、かわいい」
藤崎さんが、ポツリと言った。
「え?」
私が顔を上げると、またおもむろに、歌い出す。
──La~
めんどくさい君は
どうしてこんなに
かわいいんだろう~♪
何もかも
僕の思う通りに
いかないのに
やること、なすこと、
全部かわいい~♪♪
藤崎さんには珍しくポップなラブソング。
愛しげに歌われて、ドキドキしてしまう。
(びっくりした! 自分がかわいいと言われたのかと思っちゃった。そんな訳ないのに)
「曲作りが順調でなによりですね」
「おかげさまでね」
藤崎さんがにっこり笑った。
(うん、そうだよね。曲作り、曲作り)
勘違いしないように、自分を諌める。
そして、うっかりお風呂場についてきてしまったことに気づいたけど、後の祭り。
引っ張りこまれて、広いお風呂で一緒にシャワーを浴びて、身体を洗われて、「恥ずかしがりすぎ」という歌を歌われた。
今度はお遊びの歌だけど。
♪♪♪
風呂場を出て、タオルを巻いた状態で、私は焦りながら服を発掘していた。
藤崎さんがポイポイ放り投げたようで、ベッドの周りのいろんなところに散らばってる。
「なに慌ててるの?」
スエットを着た藤崎さんがのんびり追っかけてきた。
「帰らなきゃ!」
「なんで?」
「だって、明日も仕事なんです!」
「ここから行けばいいんじゃない?」
「同じ服なんて嫌ですし、化粧ポーチもないし、あぁっ! うそっ! カバンもない……」
「カバン?」
「譜道館に忘れてきちゃったんです……」
あの時、動揺して、手ぶらで藤崎さんの車に乗ってしまった。
幸い、カバンは鍵の掛かるロッカーに入れてあるから大丈夫なはずだけど……。
藤崎さんはガックリうなだれる私を引き寄せ、ポンポンと頭を叩いた。
「Tシャツぐらいなら貸すし、化粧品はコンビニ行けばあるでしょ? 買ってあげるよ。どうしても帰りたいなら、もう終電ないから、車で送っていくけど?」
「藤崎さんにそんなことさせられません!」
「じゃあ、泊まってく?」
「……お願いします」
藤崎さんはにっこり綺麗な顔で笑った。
「オーケー。じゃあ、コンビニに行こうか」
「場所を教えてもらえれば一人で買いに行きます!」
「こんな時間に女の子が一人は不用心だよ。それに僕も買いたいものあるし」
「そうなんですか?」
私たちは連れ立って、コンビニに向かった。
いくら深夜とはいえ、藤崎さんはサングラスをするわけでも、帽子を被るわけでもなく、いたって普通の格好だ。
「あの……大丈夫なんですか? 変装とかしなくて」
「なんで?」
「だって、藤崎さんは有名人ですよ? 写真とか撮られちゃったら……あ、私、もう少し離れますね」
気を使ったのに、藤崎さんはニヤニヤしてかえって手を繋いでくる。いわゆる恋人つなぎだ。
もう本当になにを考えてるのやら……。
「僕はいつもこのままでうろついてるし、堂々としてたら意外と気づかないよ」
「いやいや、絶対気づきますって。こんな綺麗な顔はそうそういませんから!」
「僕の顔、綺麗だって思ってるんだ」
「えぇ、だって事実ですから」
「……そこに君の感情はないの?」
「えっ?」
「…………」
急に不機嫌に黙り込んだ藤崎さんは、私の腰を引き寄せ、密着した。
「えっ、ちょ、ちょっと、藤崎さん!」
「いっそ、写真撮られちゃう? 週刊誌とかに『熱愛発覚!?』とか書かれたりして」
「とんでもない! ダメですよ!」
おもしろがる藤崎さんに私は蒼くなって、慌てて彼の腕から逃げ出した。
本気で冗談じゃない。
この人の場合、リアルにある話だ。
「大丈夫だって。うちの事務所って圧力のかけ方が半端ないから、撮られても握りつぶすし」
また抱き寄せられて、不穏なことをささやかれる。
(全然大丈夫じゃないってば! 特に私の心臓が!)
でも、抵抗すればするほど、密着度が高まるから、私はあきらめて、手を繋ぐくらいにしてもらった。スクープされないことを祈りながら。
コンビニに着いて、私は化粧品と下着と歯ブラシをカゴに入れた。
そのカゴを奪って、藤崎さんはそこにお茶のペットボトルとゴムを追加した。
(買いたいものって、それ?)
いかにも今からしますというラインナップに、私は顔が熱くなる。
藤崎さんは涼しい顔で、「ほかに欲しいものある?」なんて聞いてくる。
「じゃあ、私もお茶買ってもらっていいですか?」
「もちろん。スイーツとかいらない?」
「夜だからいいです」
「じゃあ、会計してくる」
「すみません……」
「これくらい別にいいよ」
恐縮する私に、藤崎さんは苦笑した。
深夜なのに交通量の多い街中を、コンビニの袋を提げて、手を繋いで、藤崎さんの家に帰る。
(こんなところを誰かが見たら、本当に恋人同士に見えるかも。契約の恋人って、体だけの関係じゃなくて、こういうことも含むの? 誰かに見せつけたいとか?)
藤崎さんの考えてることがまったくわからず、ちらっとその彼を見上げる。
街灯りに照らされた鼻筋の通った綺麗な横顔は機嫌がよさそうで、鼻歌でも歌いそうな笑みを浮かべていた。
悔しいことに、私はこの顔も好きなのだ。
藤崎さんの曲も歌詞も声も顔もとても好きだ。
そして、性格は……よくわからない。その考えも。
そこまで思って、首を振る。
(ううん、契約の恋人なんだから、本気になってもむなしいだけだわ。私はただのファン。それだけ。気をつけないと)
視線を正面に戻す。
十分も歩いてないのに、初夏の風がじっとり身体にまとわりつき、軽く汗ばむ。
さっきシャワー浴びたばかりなのに。
ふいに藤崎さんとシャワーを浴びたことを思い出してしまう。それどころか……。
ただでさえ暑いのに、顔がほてってしまって困った。
「藤崎さん……?」
我慢できずに訴えた。
藤崎さんは、ツーっと私の頬をなでて、意味深に笑った。
その表情を見て悟った。
(わざと焦らしてる!)
「……いじわるするなら、もう止めます!」
身体のほてりを無視して起き上がろうとすると、藤崎さんは慌てて「ごめん。もういじわるしない」と止める。
でも、その口でまた「そんなに僕がほしかったの?」と笑うから、私はむくれて彼を睨んだ。
「もう、藤崎さん! 言葉攻めもなし!」
私がそう言うと「つまんないなぁ」とつぶやくので、泣きそうになった。
どうせ私はつまんない女よ! 藤崎さんがふだん付き合ってるような人とは比べ物になるはずがないわ……。
目が潤むのをぐっとこらえて、抗議する。
「つまんないなら、私としなくていいじゃないですか……」
「そういうことじゃない!」
私の表情に気づいて、藤崎さんはまた焦った顔で私を抱きしめた。
藤崎さんは、抱きしめた手で髪をなで、顔のあちこちに何度も口づける。
私をなだめるように。
そんな甘いなぐさめ方をされたら、なにも言えなくなる……。
そう思ったら、藤崎さんがぽろりと洩らした。
「僕が欲しいって言わせたかっただけ。君は難しいね」
「……私がめんどくさい女だなんて、今さらですよ。やっぱり止めます?」
「いや、めんどくさいのがいいのかも」
藤崎さんは勝手なことを言って、また口づけると今度は本格的に愛撫を始めた。
♪♪♪
──本当に藤崎さんに抱かれた……。うそみたい。
彼は甘く甘く、素敵だった。本当に私を求めているかのようで、思い違いしないようにするのに必死になった。
譜道館でのいじわるはなんだったのかと思うほど、優しく抱いてくれた。
お互いの荒い息が治まるまでくっついていると、しばらくして藤崎さんが歌を口ずさみ始めた。
ワンフレーズ歌うと、くっと笑って、私を自分の上に乗せ、またキスをした。
「ははっ、最高だ」
歌いながら、チュッチュッとキスをして、くつくつと笑ってる。
ご機嫌な藤崎さんに、私も目を細めた。
新しい曲ができたらしい。
不思議だけど、私がいると作曲が進むのは本当らしい。
私のあちこちを弄りながら、歌を口ずさみ、満足したらしい藤崎さんは「シャワーにかかろうか」と私ごと身を起こした。
「おいで」
藤崎さんに腰を引き寄せられて、廊下に出た。
裸のままなのが恥ずかしくて、うつむいた。
「めんどくさいと、かわいい」
藤崎さんが、ポツリと言った。
「え?」
私が顔を上げると、またおもむろに、歌い出す。
──La~
めんどくさい君は
どうしてこんなに
かわいいんだろう~♪
何もかも
僕の思う通りに
いかないのに
やること、なすこと、
全部かわいい~♪♪
藤崎さんには珍しくポップなラブソング。
愛しげに歌われて、ドキドキしてしまう。
(びっくりした! 自分がかわいいと言われたのかと思っちゃった。そんな訳ないのに)
「曲作りが順調でなによりですね」
「おかげさまでね」
藤崎さんがにっこり笑った。
(うん、そうだよね。曲作り、曲作り)
勘違いしないように、自分を諌める。
そして、うっかりお風呂場についてきてしまったことに気づいたけど、後の祭り。
引っ張りこまれて、広いお風呂で一緒にシャワーを浴びて、身体を洗われて、「恥ずかしがりすぎ」という歌を歌われた。
今度はお遊びの歌だけど。
♪♪♪
風呂場を出て、タオルを巻いた状態で、私は焦りながら服を発掘していた。
藤崎さんがポイポイ放り投げたようで、ベッドの周りのいろんなところに散らばってる。
「なに慌ててるの?」
スエットを着た藤崎さんがのんびり追っかけてきた。
「帰らなきゃ!」
「なんで?」
「だって、明日も仕事なんです!」
「ここから行けばいいんじゃない?」
「同じ服なんて嫌ですし、化粧ポーチもないし、あぁっ! うそっ! カバンもない……」
「カバン?」
「譜道館に忘れてきちゃったんです……」
あの時、動揺して、手ぶらで藤崎さんの車に乗ってしまった。
幸い、カバンは鍵の掛かるロッカーに入れてあるから大丈夫なはずだけど……。
藤崎さんはガックリうなだれる私を引き寄せ、ポンポンと頭を叩いた。
「Tシャツぐらいなら貸すし、化粧品はコンビニ行けばあるでしょ? 買ってあげるよ。どうしても帰りたいなら、もう終電ないから、車で送っていくけど?」
「藤崎さんにそんなことさせられません!」
「じゃあ、泊まってく?」
「……お願いします」
藤崎さんはにっこり綺麗な顔で笑った。
「オーケー。じゃあ、コンビニに行こうか」
「場所を教えてもらえれば一人で買いに行きます!」
「こんな時間に女の子が一人は不用心だよ。それに僕も買いたいものあるし」
「そうなんですか?」
私たちは連れ立って、コンビニに向かった。
いくら深夜とはいえ、藤崎さんはサングラスをするわけでも、帽子を被るわけでもなく、いたって普通の格好だ。
「あの……大丈夫なんですか? 変装とかしなくて」
「なんで?」
「だって、藤崎さんは有名人ですよ? 写真とか撮られちゃったら……あ、私、もう少し離れますね」
気を使ったのに、藤崎さんはニヤニヤしてかえって手を繋いでくる。いわゆる恋人つなぎだ。
もう本当になにを考えてるのやら……。
「僕はいつもこのままでうろついてるし、堂々としてたら意外と気づかないよ」
「いやいや、絶対気づきますって。こんな綺麗な顔はそうそういませんから!」
「僕の顔、綺麗だって思ってるんだ」
「えぇ、だって事実ですから」
「……そこに君の感情はないの?」
「えっ?」
「…………」
急に不機嫌に黙り込んだ藤崎さんは、私の腰を引き寄せ、密着した。
「えっ、ちょ、ちょっと、藤崎さん!」
「いっそ、写真撮られちゃう? 週刊誌とかに『熱愛発覚!?』とか書かれたりして」
「とんでもない! ダメですよ!」
おもしろがる藤崎さんに私は蒼くなって、慌てて彼の腕から逃げ出した。
本気で冗談じゃない。
この人の場合、リアルにある話だ。
「大丈夫だって。うちの事務所って圧力のかけ方が半端ないから、撮られても握りつぶすし」
また抱き寄せられて、不穏なことをささやかれる。
(全然大丈夫じゃないってば! 特に私の心臓が!)
でも、抵抗すればするほど、密着度が高まるから、私はあきらめて、手を繋ぐくらいにしてもらった。スクープされないことを祈りながら。
コンビニに着いて、私は化粧品と下着と歯ブラシをカゴに入れた。
そのカゴを奪って、藤崎さんはそこにお茶のペットボトルとゴムを追加した。
(買いたいものって、それ?)
いかにも今からしますというラインナップに、私は顔が熱くなる。
藤崎さんは涼しい顔で、「ほかに欲しいものある?」なんて聞いてくる。
「じゃあ、私もお茶買ってもらっていいですか?」
「もちろん。スイーツとかいらない?」
「夜だからいいです」
「じゃあ、会計してくる」
「すみません……」
「これくらい別にいいよ」
恐縮する私に、藤崎さんは苦笑した。
深夜なのに交通量の多い街中を、コンビニの袋を提げて、手を繋いで、藤崎さんの家に帰る。
(こんなところを誰かが見たら、本当に恋人同士に見えるかも。契約の恋人って、体だけの関係じゃなくて、こういうことも含むの? 誰かに見せつけたいとか?)
藤崎さんの考えてることがまったくわからず、ちらっとその彼を見上げる。
街灯りに照らされた鼻筋の通った綺麗な横顔は機嫌がよさそうで、鼻歌でも歌いそうな笑みを浮かべていた。
悔しいことに、私はこの顔も好きなのだ。
藤崎さんの曲も歌詞も声も顔もとても好きだ。
そして、性格は……よくわからない。その考えも。
そこまで思って、首を振る。
(ううん、契約の恋人なんだから、本気になってもむなしいだけだわ。私はただのファン。それだけ。気をつけないと)
視線を正面に戻す。
十分も歩いてないのに、初夏の風がじっとり身体にまとわりつき、軽く汗ばむ。
さっきシャワー浴びたばかりなのに。
ふいに藤崎さんとシャワーを浴びたことを思い出してしまう。それどころか……。
ただでさえ暑いのに、顔がほてってしまって困った。