私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
「藤崎さん! 来てくれたんですか?」

 声の主を見ると、ちょっと長めのストレートの前髪を流した奥には、涼やかな切れ長の目が覗き、形のいい鼻と唇が続く。相変わらず、整った綺麗な顔。
 確か今年三十歳なはずだけど、小じわの一つもない肌は下手な女性よりも綺麗で、うらやましい。
 忙しいはずの彼が、一曲しか提供していないアーティストのライブの初日に顔を出してくれるとは思わなかった。藤崎さんが来てくれたことに心躍ったけれど、まだ『ブロッサム』が流れているところで、それを聞き逃したくなくて、ペコリとお辞儀をして、また舞台に目を戻した。

「本当に素敵……。すばらしい曲を提供してくださって、本当にありがとうございます」

 私は歌に聴き惚れながら、隣に並んだ藤崎さんに改めて感謝する。
 目がキラキラと輝いている自信がある。
 藤崎さんの曲はどれも私の琴線に触れ、心の深くを揺さぶる。

(あぁ、本当に好き)

 数多くの彼の曲の中でも『ブロッサム』はなにか違った。メロディラインの甘さも歌詞の言葉選びもとびきり輝いているように特別感があり、聴くたびにタイトルの通り、花が開く高揚感をもたらしてくれる。
 私の中で『ブロッサム』が一番好きな歌になった。
 私が好きなだけしゃない。実際、発売と同時にシングルは爆発的に売れ、ダウンロードや動画の再生回数も記録を更新しまくり。問い合わせが殺到して、毎日うれしい悲鳴を上げていた。
 『ブロッサム』に没頭していると、藤崎さんに聞かれた。

「また僕の曲が欲しい?」
「えっ、また書いてくれるんですか!?」
「やっと振り向いてくれたね」

 勢いよく振り返ると、藤崎さんは思ったより近くにいた。
 うっかり身体が触れそうなくらい。
 そして、身をかがめると私の耳もとで囁いた。
 私の大好きな声で。

「曲を提供するかどうかは君次第かな……」
「それはどういう……?」

 私を流し見る彼の色気に当てられゾクゾクしながら彼を見つめると、後ろから抱きしめられた。
 さわやかなシトラスの香りがふわっと漂う。
 長身の藤崎さんに左頬を引き寄せられ、彼の顔が近づく。
 私は現実感なく、その綺麗な顔に見とれてフリーズしていた。
 ひんやりした唇が私のものに重なった。

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