私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
どうしてここに?
ポロポロ涙をこぼしながら椅子にしがみつき、抵抗していたら、急に長谷川さんの手が離れ、グイッと身体を引かれた。
そして、馴染みのあるさわやかな香りが私を包んだ。
「この子は僕のものなんだ。勝手に触らないでくれるかな?」
聞いたことないくらい冷たい藤崎さんの声が頭上から聞こえた。
「藤崎さん……?」
「なんであんたが!?」
ここにいるはずのない人の声と体温に驚いて、振り返る。
優しい手が私を抱きしめ、耳もとに口づけられた。
気持ち悪かった感触を上書きしてもらえたようで、ほっと息を吐く。
「それにこれは明らかに犯罪だよ、長谷川さん」
「い、いや、これは誤解で、希ちゃんが酔っぱらっちゃったから、休ませようと……」
「嫌がる相手を?」
「ちがっ……」
藤崎さんと長谷川さんが冷たいやり取りをしているのに、私は涙でぐしょぐしょになりながら、藤崎さんにしがみついた。
(藤崎さん! 藤崎さん! どうしてここに?)
藤崎さんは安心させるようにギュッと私を抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてくれた。
助かったと頭が認識したからか、膝がかくんと崩れた。
手足の力が入らず、ズルズルと崩れ落ちそうになる。
藤崎さんが腰を抱いて支えてくれる。しっかり抱きかかえられ、安堵の息をはく。
「もう大丈夫だよ」
藤崎さんが髪の毛を優しくなでてくれる。その優しい手つきに新たな涙がこみあげる。
なぐさめるように藤崎さんが目もとに頬にキスをくれる。
その間に、長谷川さんはそろそろと出口に向かって、逃げようとしていた。
「こっちです!」
戸口から新たな声がした。
その声は佐々木さん?
驚いて見ると、彼女に誘導されてきたのはお巡りさんだった。
長谷川さんの顔が強ばる。
「なんだと!?」
「この人がお酒に薬を盛って、この子に乱暴を働こうとしたんです」
「店の奥に連れていこうとしてるのをスルーしてたから、バーテンダーもグルだね」
佐々木さんがお巡りさんに説明して、藤崎さんが補足する。
大事な場面だというのに、そこで私の記憶が途絶えた。
後で聞いたところによると、なんだか嫌な予感がした藤崎さんが佐々木さんに話してみると、佐々木さんの知り合いが長谷川さんの被害にあったばかりだった。なにかの薬を飲まされて暴行されたのだ。
血相を変えた藤崎さんは何度も私に電話してくれていたらしい。でも、接待に入っていた私は全然気がつかなかった。
私に連絡がつかなくて焦った藤崎さんが、ツテをたどってバーを見つけようとしてたところに、被害にあった知り合いから店の名前を聞き出した佐々木さんと合流した。ようやく店に着いたところ、奥に引っ張り込まれようとしていた私を発見して、藤崎さんが助け出してくれ、佐々木さんがお巡りさんを呼びに行ってくれたらしい。
警察は、社長と私の飲んでたカクテルから強力な睡眠薬を検出して、私たちの血液からも同じ成分が検出された。
バーテンダーが長谷川さんの指示で薬を入れたことを自白して、何度か同じことをしたのを認めた。
後のことだけど、佐々木さんの知り合いの被害者も訴えることになり、長谷川さんは逮捕された。
そして、彼はテレビ局を即日懲戒解雇されたらしい。
そうした経緯を私は藤崎さんの腕の中で聞いた。
目を覚まして、ガタガタ震える私を、藤崎さんはずっと抱きしめてくれていた。
「間に合って、本当によかった……」
藤崎さんの声も震えていて、本当に心配してくれていたんだと涙がこぼれた。
温かい胸に頬を寄せ、しがみついていると、だんだん落ち着いてきた。
「藤崎さん、本当にありがとうございます。私、もうダメかと……」
またあの時のことを思い出して、ホロリと涙が溢れる。
無力感、絶望感、嫌悪感に苛まれ、また震えた。
「もう大丈夫だから、思い出さなくていい」
藤崎さんが優しく背中をなでてくれる。唇が目もとを這い、涙を拭ってくれる。
その優しさに甘え、私は彼に訴えた。
「藤崎さん……すごく嫌だったの。気持ち悪かったの」
「うん」
藤崎さんは髪をなでて、優しく聞いてくれる。
「もう大丈夫だよ」
「うん……でも……」
あの時の感触がまだ身体に残っている。
気持ち悪い、あの感触がこびりついている。
(やだやだやだ……)
私は駄々っ子のように目を閉じて首を振った。
「希?」
私は藤崎さんにすがった。
「藤崎さん、上書きして?」
「うん」
彼は優しく私を抱きしめ、腕や背中をさすってくれた。あの場面を見ていたのか、耳もとにもキスを落としてくれる。
でも、まだ足りない。
「藤崎さん、抱いて? 忘れたいの」
「希……」
「お願い!」
「君が望むなら……」
藤崎さんは私をベッドに連れていき、そっと押し倒した。なだめるようなキスをして、ためらいがちに私の身体に触れる。そして、確かめるように私を見た。
「怖くない?」
「藤崎さんなら怖くないです」
彼の背中に手を回してギュッとしがみついた私に口づけて、藤崎さんは安心させるように微笑んだ。
彼は快楽のためではなく、私を慰めるために、優しく優しく抱いてくれた。
強張っていた身体がほどけていく。
(藤崎さん……私はやっぱりあなたのことが……)
私は彼の胸に身を任せて、意識を手放した。
♪♪♪
次に目を開けると、藤崎さんが心配そうに見ていた。
目の下にクマができている。
「藤崎さん、もしかして寝てないんですか?」
指で彼の目の下をそっとたどる。
ずっと温かい腕に包まれていた感触がしてたから、一緒にベッドで横になってたはずなのに。眠れなかったのかな?
「少しは寝たよ。君が意識を失うから、心配で寝つけなかっただけ。穏やかに寝息を立ててたから大丈夫だとは思ったんだけどね」
ほっとした顔で息をついた藤崎さんに、呑気に寝ていたのをとても申し訳なく思う。
藤崎さんに甘やかされて、たっぷり寝て、すっかり元気になっていた。
「ごめんなさい。安心して寝ちゃってただけだと思います」
「それならよかった」
うっとりするような優しい笑みを浮かべて、藤崎さんは言った。
髪の毛を梳くようになでてくれて、私の様子を窺っている。
私の心配ばかりをしてくれている藤崎さんに胸がいっぱいになる。
(藤崎さんは本当に優しい。譜道館でのことがウソみたい)
契約の恋人にさえ、こんなに優しい人が、なんであの時あんな強引なことをしたんだろう?
ふいに疑問がよみがえった。
「私はもう大丈夫だから寝てください。昨夜から警察の聴取を受けたり病院に連れていってくれたり大変だったでしょ?」
「ありがとう。うん、ちょっと寝るね。そういえば、希のところの石田社長から連絡あったよ。無事目を覚ましたって。君に謝っておいてくれって言ってた。希のところにも連絡入ってると思うけど、明日も休んでいいってさ」
「よかった。社長も何事もなくて」
社長の方が睡眠薬を大量に摂取してたはずだから、ちょっと心配だった。
実際、あの場では目を覚まさなくて、救急車で運ばれていったらしいし。
それに、社長だって被害者なんだから、私に謝る必要はないのに。
「ちょっとスマホを見てみます」
そう言って、起き上がろうとしたら、藤崎さんに抱き留められた。
「僕が寝入るまでそばにいてよ」
甘えるような声で私の肩口に顔を埋める藤崎さん。
胸が詰まって、ぎゅっと彼の頭を抱きしめた。
「わかりました。子守唄でも歌いましょうか?」
なんだか照れくさくなって言ってみると、「いいね」と返された。
しかも、期待に満ちた目で見られるので、歌わざるを得なくなる。
あの藤崎東吾に歌を披露するなんて……。
「じ、じゃあ、ねーむれ~、ねーむれ~」
私の微妙な歌声に、藤崎さんは口もとを緩めて、目を閉じた。
歌に合わせて、ゆっくりと髪の毛をなでる。まっすぐでしなやかな髪の毛は手触りがよかった。
よっぽど疲れていたのか、ほどなく藤崎さんは寝息を立て始めた。
子守歌のボリュームを下げていって、なでる手もスピードを落とした。
完全に止まっても、藤崎さんはぐっすり寝たままだったので、ほっとする。
色気のある切れ長の目も閉じられていると少し幼く見えて、私の大好きな歌を奏でる唇も今は安らかに寝息を洩らすだけだった。
(愛しい……)
彼のこめかみにそっと口づける。
憧れとかファンとかでなく、この人が好きだ。心から思った。
ずっと認められなかったけど、もう自分をごまかすのは無理だ。
こんな魅力的で優しくて、危機の時に助けに来てくれるヒーローに惹かれないわけがない。
(藤崎さん、好き。終わりのある関係だとしても、作曲のために求められてるだけでも、やっぱり好き)
一度認めてしまうと気持ちがあふれ出し、そっと彼の髪をなでて、寝顔を見つめた。
(好き……)
泣きたくないのに涙が滲んでくる。
曲作りは順調みたいだから、もうすぐアルバムの曲も完成するはず。そうしたら、この関係も終わり。終わらせなきゃ。いつまでもこんな関係を続けるわけにはいかない。
そしたら、そしたら、他に目を向けて、新しい恋を探そう。
藤崎さん以上の人なんているはずないけど。
「………ん。……希? 泣いてるの?」
藤崎さんがぼんやり目を開けた。
心配そうに私を見る。
「なんでもないです。怖い夢を見ただけで……」
そうごまかすと、寝ぼけてるみたいなのに藤崎さんは私をぎゅっと抱きしめて言った。
「大丈夫。なにがあっても僕が守るから……」
今回のことで私が不安になってると思ったらしい。
今度は私が頭を優しくなでられる。
幸せ。そして、胸がつまる。
「ありがとうございます……」
私も抱き返すと、藤崎さんはふんわりと微笑んで、またすーっと眠りに落ちていった。
そして、馴染みのあるさわやかな香りが私を包んだ。
「この子は僕のものなんだ。勝手に触らないでくれるかな?」
聞いたことないくらい冷たい藤崎さんの声が頭上から聞こえた。
「藤崎さん……?」
「なんであんたが!?」
ここにいるはずのない人の声と体温に驚いて、振り返る。
優しい手が私を抱きしめ、耳もとに口づけられた。
気持ち悪かった感触を上書きしてもらえたようで、ほっと息を吐く。
「それにこれは明らかに犯罪だよ、長谷川さん」
「い、いや、これは誤解で、希ちゃんが酔っぱらっちゃったから、休ませようと……」
「嫌がる相手を?」
「ちがっ……」
藤崎さんと長谷川さんが冷たいやり取りをしているのに、私は涙でぐしょぐしょになりながら、藤崎さんにしがみついた。
(藤崎さん! 藤崎さん! どうしてここに?)
藤崎さんは安心させるようにギュッと私を抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてくれた。
助かったと頭が認識したからか、膝がかくんと崩れた。
手足の力が入らず、ズルズルと崩れ落ちそうになる。
藤崎さんが腰を抱いて支えてくれる。しっかり抱きかかえられ、安堵の息をはく。
「もう大丈夫だよ」
藤崎さんが髪の毛を優しくなでてくれる。その優しい手つきに新たな涙がこみあげる。
なぐさめるように藤崎さんが目もとに頬にキスをくれる。
その間に、長谷川さんはそろそろと出口に向かって、逃げようとしていた。
「こっちです!」
戸口から新たな声がした。
その声は佐々木さん?
驚いて見ると、彼女に誘導されてきたのはお巡りさんだった。
長谷川さんの顔が強ばる。
「なんだと!?」
「この人がお酒に薬を盛って、この子に乱暴を働こうとしたんです」
「店の奥に連れていこうとしてるのをスルーしてたから、バーテンダーもグルだね」
佐々木さんがお巡りさんに説明して、藤崎さんが補足する。
大事な場面だというのに、そこで私の記憶が途絶えた。
後で聞いたところによると、なんだか嫌な予感がした藤崎さんが佐々木さんに話してみると、佐々木さんの知り合いが長谷川さんの被害にあったばかりだった。なにかの薬を飲まされて暴行されたのだ。
血相を変えた藤崎さんは何度も私に電話してくれていたらしい。でも、接待に入っていた私は全然気がつかなかった。
私に連絡がつかなくて焦った藤崎さんが、ツテをたどってバーを見つけようとしてたところに、被害にあった知り合いから店の名前を聞き出した佐々木さんと合流した。ようやく店に着いたところ、奥に引っ張り込まれようとしていた私を発見して、藤崎さんが助け出してくれ、佐々木さんがお巡りさんを呼びに行ってくれたらしい。
警察は、社長と私の飲んでたカクテルから強力な睡眠薬を検出して、私たちの血液からも同じ成分が検出された。
バーテンダーが長谷川さんの指示で薬を入れたことを自白して、何度か同じことをしたのを認めた。
後のことだけど、佐々木さんの知り合いの被害者も訴えることになり、長谷川さんは逮捕された。
そして、彼はテレビ局を即日懲戒解雇されたらしい。
そうした経緯を私は藤崎さんの腕の中で聞いた。
目を覚まして、ガタガタ震える私を、藤崎さんはずっと抱きしめてくれていた。
「間に合って、本当によかった……」
藤崎さんの声も震えていて、本当に心配してくれていたんだと涙がこぼれた。
温かい胸に頬を寄せ、しがみついていると、だんだん落ち着いてきた。
「藤崎さん、本当にありがとうございます。私、もうダメかと……」
またあの時のことを思い出して、ホロリと涙が溢れる。
無力感、絶望感、嫌悪感に苛まれ、また震えた。
「もう大丈夫だから、思い出さなくていい」
藤崎さんが優しく背中をなでてくれる。唇が目もとを這い、涙を拭ってくれる。
その優しさに甘え、私は彼に訴えた。
「藤崎さん……すごく嫌だったの。気持ち悪かったの」
「うん」
藤崎さんは髪をなでて、優しく聞いてくれる。
「もう大丈夫だよ」
「うん……でも……」
あの時の感触がまだ身体に残っている。
気持ち悪い、あの感触がこびりついている。
(やだやだやだ……)
私は駄々っ子のように目を閉じて首を振った。
「希?」
私は藤崎さんにすがった。
「藤崎さん、上書きして?」
「うん」
彼は優しく私を抱きしめ、腕や背中をさすってくれた。あの場面を見ていたのか、耳もとにもキスを落としてくれる。
でも、まだ足りない。
「藤崎さん、抱いて? 忘れたいの」
「希……」
「お願い!」
「君が望むなら……」
藤崎さんは私をベッドに連れていき、そっと押し倒した。なだめるようなキスをして、ためらいがちに私の身体に触れる。そして、確かめるように私を見た。
「怖くない?」
「藤崎さんなら怖くないです」
彼の背中に手を回してギュッとしがみついた私に口づけて、藤崎さんは安心させるように微笑んだ。
彼は快楽のためではなく、私を慰めるために、優しく優しく抱いてくれた。
強張っていた身体がほどけていく。
(藤崎さん……私はやっぱりあなたのことが……)
私は彼の胸に身を任せて、意識を手放した。
♪♪♪
次に目を開けると、藤崎さんが心配そうに見ていた。
目の下にクマができている。
「藤崎さん、もしかして寝てないんですか?」
指で彼の目の下をそっとたどる。
ずっと温かい腕に包まれていた感触がしてたから、一緒にベッドで横になってたはずなのに。眠れなかったのかな?
「少しは寝たよ。君が意識を失うから、心配で寝つけなかっただけ。穏やかに寝息を立ててたから大丈夫だとは思ったんだけどね」
ほっとした顔で息をついた藤崎さんに、呑気に寝ていたのをとても申し訳なく思う。
藤崎さんに甘やかされて、たっぷり寝て、すっかり元気になっていた。
「ごめんなさい。安心して寝ちゃってただけだと思います」
「それならよかった」
うっとりするような優しい笑みを浮かべて、藤崎さんは言った。
髪の毛を梳くようになでてくれて、私の様子を窺っている。
私の心配ばかりをしてくれている藤崎さんに胸がいっぱいになる。
(藤崎さんは本当に優しい。譜道館でのことがウソみたい)
契約の恋人にさえ、こんなに優しい人が、なんであの時あんな強引なことをしたんだろう?
ふいに疑問がよみがえった。
「私はもう大丈夫だから寝てください。昨夜から警察の聴取を受けたり病院に連れていってくれたり大変だったでしょ?」
「ありがとう。うん、ちょっと寝るね。そういえば、希のところの石田社長から連絡あったよ。無事目を覚ましたって。君に謝っておいてくれって言ってた。希のところにも連絡入ってると思うけど、明日も休んでいいってさ」
「よかった。社長も何事もなくて」
社長の方が睡眠薬を大量に摂取してたはずだから、ちょっと心配だった。
実際、あの場では目を覚まさなくて、救急車で運ばれていったらしいし。
それに、社長だって被害者なんだから、私に謝る必要はないのに。
「ちょっとスマホを見てみます」
そう言って、起き上がろうとしたら、藤崎さんに抱き留められた。
「僕が寝入るまでそばにいてよ」
甘えるような声で私の肩口に顔を埋める藤崎さん。
胸が詰まって、ぎゅっと彼の頭を抱きしめた。
「わかりました。子守唄でも歌いましょうか?」
なんだか照れくさくなって言ってみると、「いいね」と返された。
しかも、期待に満ちた目で見られるので、歌わざるを得なくなる。
あの藤崎東吾に歌を披露するなんて……。
「じ、じゃあ、ねーむれ~、ねーむれ~」
私の微妙な歌声に、藤崎さんは口もとを緩めて、目を閉じた。
歌に合わせて、ゆっくりと髪の毛をなでる。まっすぐでしなやかな髪の毛は手触りがよかった。
よっぽど疲れていたのか、ほどなく藤崎さんは寝息を立て始めた。
子守歌のボリュームを下げていって、なでる手もスピードを落とした。
完全に止まっても、藤崎さんはぐっすり寝たままだったので、ほっとする。
色気のある切れ長の目も閉じられていると少し幼く見えて、私の大好きな歌を奏でる唇も今は安らかに寝息を洩らすだけだった。
(愛しい……)
彼のこめかみにそっと口づける。
憧れとかファンとかでなく、この人が好きだ。心から思った。
ずっと認められなかったけど、もう自分をごまかすのは無理だ。
こんな魅力的で優しくて、危機の時に助けに来てくれるヒーローに惹かれないわけがない。
(藤崎さん、好き。終わりのある関係だとしても、作曲のために求められてるだけでも、やっぱり好き)
一度認めてしまうと気持ちがあふれ出し、そっと彼の髪をなでて、寝顔を見つめた。
(好き……)
泣きたくないのに涙が滲んでくる。
曲作りは順調みたいだから、もうすぐアルバムの曲も完成するはず。そうしたら、この関係も終わり。終わらせなきゃ。いつまでもこんな関係を続けるわけにはいかない。
そしたら、そしたら、他に目を向けて、新しい恋を探そう。
藤崎さん以上の人なんているはずないけど。
「………ん。……希? 泣いてるの?」
藤崎さんがぼんやり目を開けた。
心配そうに私を見る。
「なんでもないです。怖い夢を見ただけで……」
そうごまかすと、寝ぼけてるみたいなのに藤崎さんは私をぎゅっと抱きしめて言った。
「大丈夫。なにがあっても僕が守るから……」
今回のことで私が不安になってると思ったらしい。
今度は私が頭を優しくなでられる。
幸せ。そして、胸がつまる。
「ありがとうございます……」
私も抱き返すと、藤崎さんはふんわりと微笑んで、またすーっと眠りに落ちていった。