私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
(えっ?)

 私は藤崎さんにキスされていた。

「君が僕のものになるなら、いくらでも曲を提供してあげるよ」

 驚いて固まっていると、近い距離のまま、彼はささやく。
 甘い声の内容はひどいもので、私の思考は停止した。

(『僕のもの』って……幻聴?)

 でも、抱きしめられて、頬にキスされて、色っぽいまなざしで見つめられると、現実だと悟った。
 彼の意図を理解すると、かあっと顔が熱くなる。

「……こんなところで止めてください!」

 目立たない位置にいるので、幸い誰も注目していないけれど、誰に聞かれたり見られたりしてるかわからない。押し殺した声で咎め、身体を離そうとするけど、藤崎さんの力は強く、びくともせず、為すすべもなかった。

「こんなところじゃなければいいの?」

 耳にも口づけを落とされながら、ささやかれる。
 ビクッと感じてしまう自分が嫌だ。首を振って、なんとか抗おうとする。

「いいわけないです! だいたい私じゃなくても、藤崎さんならいくらでも相手をしてくれる人がいるでしょ?」
「うん、いるね」

 藤崎さんがあっさり認め、耳もとでくすっと笑う。
 その吐息が鼓膜をくすぐって、ぴくんと反応してしまう。

(手近にいるなら誰でもいいってこと?)

 不穏な返しに憤りを覚える。

「じゃあ、その人たちでいいじゃないですか!」
「でも、君を見てると曲のアイディアが湧くんだ」
「えっ? アイディア?」

 思いがけないことを言われて、怒りも忘れて、私はまた聞き返した。
 藤崎さんは思いのほか真剣な顔で言う。

「君といると曲が湧いてくるんだ。だから、抱いたらいったいどうなるのかなと思って。あぁ、今も浮かんできた……」

 彼はそう言って、ハミングを始めた。
 超好みのセクシーな声と良質な音楽を直接耳に吹き込まれて、私は腰砕けになった。

「おっと……」

 それを藤崎さんが支えてくれる。

「今のでそんなに感じたの? 君は本当に僕の曲が好きなんだね」

 楽曲提供を口説き落とす時に、どれだけ私が藤崎さんの曲が好きか、何度も熱弁していた。でも、彼には言ってなかったけど、本当は曲だけでなく、藤崎さんの声もとても好きだった。
 藤崎さんは笑って、私のあごを持ち上げた。また、不埒な表情だ。

「たしか『曲をくれたらなんでもする』って言ってたよね? だから、曲の誕生に手を貸してくれてもいいと思うんだ」

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