私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
疑う余地がない
「希、好きだよ」
抱かれながら、何度も言われた。
藤崎さんの好きが心の中に溜まっていって、私を満たしていく。
「藤崎さん……私も好きです」
手を伸ばして、藤崎さんにしがみついた。
幸せすぎて、涙がこぼれる。
「希?」
心配そうな藤崎さんに笑顔を作る。
「幸せで胸が苦しいんです」
それを聞いた藤崎さんが愛しげに微笑んだ。
「僕もだよ。もうダメかと思った。好きだとか愛してるって何度も言ったのに君は無反応だったから。最後に君を思う曲を作って、告白しようと思ったんだ」
「だって、それは新曲の歌詞かと思って……。私だってそれをやり過ごすのがつらかったんですよ?」
藤崎さんが私の上に突っ伏した。くぐもった声でつぶやく。
「やっぱり初めが間違ってた……。怖がらずに、もっと早く希が好きで好きでたまらないって言えばよかった」
「怖い?」
「そりゃ、怖いさ。希から拒否されたらどうしようって」
「藤崎さん……」
どうしよう……藤崎さんがかわいい。
あの藤崎東吾が……。
藤崎さんの頭を抱いて、よしよしとなでた。
「私も好きで好きでたまりませんでしたよ? まさか藤崎さんに好かれてるとは思わなかったから、切なくて苦しかったですけど」
「僕はかなりわかりやすく好意を示してたと思うんだけど?」
「だって、契約の恋人って言われてたし、ペット的にかわいがられてるんだと思ってました」
「ペットって……。あぁ、だから、小動物って言ってたのか。まったく君の中で僕のイメージは最悪だったんだね」
「違いますよ。私が藤崎さんに相手にされるとは思ってなかっただけです」
「そんなわけないだろ! 相手にされてなかったのは、僕のほうだよ」
「そんなわけありません!」
ふたりで顔を見合わせて、笑う。
「希、愛してる。心から愛してる……」
「藤崎さん、私も」
心も身体も満たされて、私たちは離れがたく、いつまでも抱き合っていた。
「希……やっぱり今すぐ結婚して? 君が誰かのものになる可能性があると思うとたまらない……」
「そんな可能性ないから、大丈夫ですよ?」
ベッドで抱き合いながら、藤崎さんがまた言い出したので、笑って答えると、彼は不満そうにつぶやいた。
「本当に君はちっとも僕の思う通りになってくれないね……」
「そこがいいんでしょ?」
「うん」
冗談だったのに、真顔で頷かれた。
(もう……)
一瞬でほてった頬を藤崎さんの胸に擦りつけて、甘える。
「本物の恋人同士になったばかりなんですから、しばらくそれを楽しみましょうよ」
「……そう言われると弱いな」
笑った藤崎さんは頬にキスをして、「じゃあ、デートしてくれる?」とねだった。
「でも、外は……」
「ほら、そうやって希が気にするから、奥さんになってって言ったのに」
「?」
話が飛躍してついていけず、首をひねる。
「奥さんならなんのスクープの心配もないでしょ? 堂々と外を歩ける」
「そんな理由でプロポーズしたんですか!?」
私は呆れた目で藤崎さんを眺める。
藤崎さんは私の反応に、心外だと拗ねた顔をする。
「そんな理由じゃないよ! 希が気兼ねなくデートしてくれるかどうかは、僕にとっては重要だよ」
普通、そんな理由でいきなり結婚しようと言う人なんていませんよ……。
やっぱり藤崎さんは常人とは違う感性の持ち主だわ。
そんなことを思っていると、さらに藤崎さんが言った。
「それに、どっちにしても大丈夫だよ。もうスクープになるほどの話題性はないから」
「どういうことですか?」
私は意味がわからず、また首を傾げる。
藤崎さんはくすくす笑って、説明してくれる。
「マスコミには釘を刺してあるし、プロポーズの曲としてアップしたから、希と出歩いてても、例の彼女かとしか思われないよ」
「えぇー! うそでしょ?」
「ほんと。安心して出かけられるよ」
「ぜんぜん安心じゃありませんよ……」
がっくりして、顔を伏せた。
明日からどんな顔で、仕事したらいいんだろう?
「困ったね。もう僕から逃げられないよ?」
「困りませんよ?」
悪ぶって言う藤崎さんに、私は顔を上げて、口づけた。
♪♪♪
翌日、事務所に行くと、盛大にからかわれた。
「ゴージャスなプロポーズだったな」
「やっぱり藤崎さんはマジだったじゃん」
口々に言われて、私は顔を赤らめた。
TAKUYAまで来ていて、「あれには負けたよ。さすが藤崎さん、やることが違う」と苦笑した。
「でも、よかったね」とささやいてくれるTAKUYAはやっぱりいい男だ。
「で、いつ入籍するんだ?」
「結婚はまだ保留です」
「マジで!?」
「あそこまでして、藤崎さん、気の毒に……」
「今までも希ちゃんに全然伝わってなかったみたいだしなぁ」
「だって……」
「あの藤崎さんにあそこまでさせて、さらに待たせるなんて、希ちゃん、最強だなぁ」
口をそろえて言われて、藤崎さんに悪いことをしてる気になってくる。
もちろん、藤崎さんと結婚するのが嫌なんじゃない。
ただ現実感がないだけなのだ。
だって、藤崎さんが私を好きだったって知ったばかりなんだもん。
そんな一足飛びに考えられないよ。
「早く捕まえとかないと、あんな有望株、誰かにかっさらわれちゃうぞ」
「こら、なんてこと言うんだ!」
「でも、私もそう思うんですよね……。藤崎さんはもっと考えた方がいいんじゃないかって」
「希、それ絶対、藤崎さんには言うなよ? 相当失礼なことを言ってるぞ?」
社長に咎められて、考える。
それは、藤崎さんが好きだとか結婚したいと言ってくれてるのを疑う言葉だった。
「ごめんなさい。考えなしでした。でも、本当に私でいいのか不安で……」
「藤崎さんが希がいいって言ってるんだからいいんだろ。それに、あんなに希のことに必死になってくれるやつなんて、そうそういないぞ」
いろいろ知ってる社長に言われて、思い返す。
藤崎さんがしてくれたことを。
余計な考えにとらわれずに振り返ると、藤崎さんはいつも私のことを考えてくれていた。
想ってくれていた。
「希さん、あの歌、ちゃんと聞いた?」
黙って、社長と私のやり取りを聞いていたTAKUYAがふいに言った。
「実はまだ一回しか聴いてないの」
本人が直に歌ってくれたスペシャルなやつだけど。
「希さんは不安に思ってるみたいだけど、あの歌をちゃんと聴いたら、そんなの吹っ飛ぶと思うんだけどなぁ」
「確かに! 男の俺でもキュンときたもんなー」
「キュンって柄かよ!」
野上さんの言葉にどっと湧く。
「そうだな。俺が許可する。じっくり聴いてみろ」
社長までそう言うから、私は動画サイトで検索して、藤崎さんの公式チャンネルで、その歌を見つけた。
昨日アップしたはずなのに、すでに再生回数が半端ない。
コメントも見る端からついている。
『片想いの彼女に捧げる歌!?こんなのイエスしかないでしょ?』
『愛が溢れてる!』
『なんだか泣けました……』
『がんばれー』
『彼女にオッケーしてもらえるといいですねー』
なんか藤崎さんへの応援メッセージが多いような……。
サムネイルには一言、「希」と出ていた。
これ、タイトルなの?
藤崎さんが言ってたとおり、説明文には『愛しい彼女へのプロポーズの曲』とだけある。
(もう、藤崎さん……! これは結構恥ずかしい)
イヤフォンをつけて、再生してみる。
綺麗なメロディの直後に藤崎さんの声が入る。
昨日聴いたときには混乱してて、意味を追うのに精一杯だったけど、落ち着いて聴くと、私への想いが溢れていて、知らず涙がこぼれた。
藤崎さんの声が心に沁み込んでいって、わだかまりや不安を溶かしていく。
確かに、この想いを疑うなんて失礼だ。あり得ない。
社長が怒るのも理解できた。
「ね? なんかもう疑う余地ないでしょ?」
TAKUYAが私を見て、笑った。
私はそれに頷いて、顔を覆った。
藤崎さん……。
今すぐ会いたい。
会って、伝えたい。
私だって、負けないくらい大好きだって。
♪♪♪
「ただいまー」
「おかえり。お疲れさま」
私が会社から帰ると、藤崎さんはいつものように笑顔で出迎えてくれた。
昨日話し合った結果、とりあえず、また藤崎さんの家に来ることになったのだ。
藤崎さんの歌を聴いてから、彼に会いたくて会いたくて仕方がなかった私は、靴を脱ぐのもそこそこに、彼に抱きついた。
「おっと。どうしたの?」
勢いよく飛びついた私を抱きとめてくれながら、藤崎さんが驚いた顔をする。
その綺麗な顔を両手で挟んで引き寄せてキスをする。
そして、その距離のまま、「好き! 好きなの!」と叫ぶと、彼はひどくうれしそうな顔で微笑んだ。
「僕も好きだよ、希」
落ち着いた穏やかな声で藤崎さんがささやいてくれる。
「藤崎さん、大好き……」
自分の気持ちを伝えきれていない気がして、そう繰り返すと、彼はくすっと笑って言った。
腰に手を回され、顔を寄せられる。
「どうしたの、希。なにかあった?」
「会社でね、あの曲をもう一度聴いたんです。そうしたら、想いがあふれて……」
「そりゃあ、僕が必死で希を口説き落とすために書いた曲だからね」
「はい。伝わりました。とても」
そういうと藤崎さんはとても幸せそうな顔をしてくれて、本当にこの人は私のことが好きなんだと実感する。
熱いキスが繰り返されて、身体を優しくなでられる。
藤崎さんの手が服の裾から背中に入り込んできて、ブラのホックを外そうとした。
「あーっ、待って! それはご飯を食べてからです!」
そう言ってストップをかけると、藤崎さんが私の肩でがっくりうなだれた。
「本当に君は僕を焦らすのが得意だね……」
ブツブツ文句を言いながらも手が止まる。
「だって、お腹空いたし、ゆっくり落ち着いてしたいんですもん。……明日は休みを取ったんです」
藤崎さんがばっと顔をあげた。
「希もしたいの?」
「はい」
「明日休むくらい?」
「……はい」
かぁっと頬が熱くなる。
急に機嫌を直した藤崎さんは、鼻唄を歌いながら私の手を引いて、リビングに連れて行った。
「じゃあ、さっさと食べようよ」
二人で食事を用意すると、並んでソファーに腰かける。
ご飯を食べている間も藤崎さんは、私の肩を引き寄せて頬にキスしたり、腰をなでたり、忙しない。
「もうっ、藤崎さん! 落ち着いて食べましょうよ」
「落ち着いてなんかいられないよ。希がかわいすぎて」
「もう、なに言ってるんですか!」
甘く熱い瞳に見つめられて、蕩けそうになる。
と、また口づけられた。
そして、最後の一口を食べ終わった瞬間に、押し倒された。
そして、休みを取ったなんて言わなければよかったと思うほどに、デロデロに愛されて、藤崎さんの愛を思い知った。
もう降参。
もう疑うことなんてできない。
抱かれながら、何度も言われた。
藤崎さんの好きが心の中に溜まっていって、私を満たしていく。
「藤崎さん……私も好きです」
手を伸ばして、藤崎さんにしがみついた。
幸せすぎて、涙がこぼれる。
「希?」
心配そうな藤崎さんに笑顔を作る。
「幸せで胸が苦しいんです」
それを聞いた藤崎さんが愛しげに微笑んだ。
「僕もだよ。もうダメかと思った。好きだとか愛してるって何度も言ったのに君は無反応だったから。最後に君を思う曲を作って、告白しようと思ったんだ」
「だって、それは新曲の歌詞かと思って……。私だってそれをやり過ごすのがつらかったんですよ?」
藤崎さんが私の上に突っ伏した。くぐもった声でつぶやく。
「やっぱり初めが間違ってた……。怖がらずに、もっと早く希が好きで好きでたまらないって言えばよかった」
「怖い?」
「そりゃ、怖いさ。希から拒否されたらどうしようって」
「藤崎さん……」
どうしよう……藤崎さんがかわいい。
あの藤崎東吾が……。
藤崎さんの頭を抱いて、よしよしとなでた。
「私も好きで好きでたまりませんでしたよ? まさか藤崎さんに好かれてるとは思わなかったから、切なくて苦しかったですけど」
「僕はかなりわかりやすく好意を示してたと思うんだけど?」
「だって、契約の恋人って言われてたし、ペット的にかわいがられてるんだと思ってました」
「ペットって……。あぁ、だから、小動物って言ってたのか。まったく君の中で僕のイメージは最悪だったんだね」
「違いますよ。私が藤崎さんに相手にされるとは思ってなかっただけです」
「そんなわけないだろ! 相手にされてなかったのは、僕のほうだよ」
「そんなわけありません!」
ふたりで顔を見合わせて、笑う。
「希、愛してる。心から愛してる……」
「藤崎さん、私も」
心も身体も満たされて、私たちは離れがたく、いつまでも抱き合っていた。
「希……やっぱり今すぐ結婚して? 君が誰かのものになる可能性があると思うとたまらない……」
「そんな可能性ないから、大丈夫ですよ?」
ベッドで抱き合いながら、藤崎さんがまた言い出したので、笑って答えると、彼は不満そうにつぶやいた。
「本当に君はちっとも僕の思う通りになってくれないね……」
「そこがいいんでしょ?」
「うん」
冗談だったのに、真顔で頷かれた。
(もう……)
一瞬でほてった頬を藤崎さんの胸に擦りつけて、甘える。
「本物の恋人同士になったばかりなんですから、しばらくそれを楽しみましょうよ」
「……そう言われると弱いな」
笑った藤崎さんは頬にキスをして、「じゃあ、デートしてくれる?」とねだった。
「でも、外は……」
「ほら、そうやって希が気にするから、奥さんになってって言ったのに」
「?」
話が飛躍してついていけず、首をひねる。
「奥さんならなんのスクープの心配もないでしょ? 堂々と外を歩ける」
「そんな理由でプロポーズしたんですか!?」
私は呆れた目で藤崎さんを眺める。
藤崎さんは私の反応に、心外だと拗ねた顔をする。
「そんな理由じゃないよ! 希が気兼ねなくデートしてくれるかどうかは、僕にとっては重要だよ」
普通、そんな理由でいきなり結婚しようと言う人なんていませんよ……。
やっぱり藤崎さんは常人とは違う感性の持ち主だわ。
そんなことを思っていると、さらに藤崎さんが言った。
「それに、どっちにしても大丈夫だよ。もうスクープになるほどの話題性はないから」
「どういうことですか?」
私は意味がわからず、また首を傾げる。
藤崎さんはくすくす笑って、説明してくれる。
「マスコミには釘を刺してあるし、プロポーズの曲としてアップしたから、希と出歩いてても、例の彼女かとしか思われないよ」
「えぇー! うそでしょ?」
「ほんと。安心して出かけられるよ」
「ぜんぜん安心じゃありませんよ……」
がっくりして、顔を伏せた。
明日からどんな顔で、仕事したらいいんだろう?
「困ったね。もう僕から逃げられないよ?」
「困りませんよ?」
悪ぶって言う藤崎さんに、私は顔を上げて、口づけた。
♪♪♪
翌日、事務所に行くと、盛大にからかわれた。
「ゴージャスなプロポーズだったな」
「やっぱり藤崎さんはマジだったじゃん」
口々に言われて、私は顔を赤らめた。
TAKUYAまで来ていて、「あれには負けたよ。さすが藤崎さん、やることが違う」と苦笑した。
「でも、よかったね」とささやいてくれるTAKUYAはやっぱりいい男だ。
「で、いつ入籍するんだ?」
「結婚はまだ保留です」
「マジで!?」
「あそこまでして、藤崎さん、気の毒に……」
「今までも希ちゃんに全然伝わってなかったみたいだしなぁ」
「だって……」
「あの藤崎さんにあそこまでさせて、さらに待たせるなんて、希ちゃん、最強だなぁ」
口をそろえて言われて、藤崎さんに悪いことをしてる気になってくる。
もちろん、藤崎さんと結婚するのが嫌なんじゃない。
ただ現実感がないだけなのだ。
だって、藤崎さんが私を好きだったって知ったばかりなんだもん。
そんな一足飛びに考えられないよ。
「早く捕まえとかないと、あんな有望株、誰かにかっさらわれちゃうぞ」
「こら、なんてこと言うんだ!」
「でも、私もそう思うんですよね……。藤崎さんはもっと考えた方がいいんじゃないかって」
「希、それ絶対、藤崎さんには言うなよ? 相当失礼なことを言ってるぞ?」
社長に咎められて、考える。
それは、藤崎さんが好きだとか結婚したいと言ってくれてるのを疑う言葉だった。
「ごめんなさい。考えなしでした。でも、本当に私でいいのか不安で……」
「藤崎さんが希がいいって言ってるんだからいいんだろ。それに、あんなに希のことに必死になってくれるやつなんて、そうそういないぞ」
いろいろ知ってる社長に言われて、思い返す。
藤崎さんがしてくれたことを。
余計な考えにとらわれずに振り返ると、藤崎さんはいつも私のことを考えてくれていた。
想ってくれていた。
「希さん、あの歌、ちゃんと聞いた?」
黙って、社長と私のやり取りを聞いていたTAKUYAがふいに言った。
「実はまだ一回しか聴いてないの」
本人が直に歌ってくれたスペシャルなやつだけど。
「希さんは不安に思ってるみたいだけど、あの歌をちゃんと聴いたら、そんなの吹っ飛ぶと思うんだけどなぁ」
「確かに! 男の俺でもキュンときたもんなー」
「キュンって柄かよ!」
野上さんの言葉にどっと湧く。
「そうだな。俺が許可する。じっくり聴いてみろ」
社長までそう言うから、私は動画サイトで検索して、藤崎さんの公式チャンネルで、その歌を見つけた。
昨日アップしたはずなのに、すでに再生回数が半端ない。
コメントも見る端からついている。
『片想いの彼女に捧げる歌!?こんなのイエスしかないでしょ?』
『愛が溢れてる!』
『なんだか泣けました……』
『がんばれー』
『彼女にオッケーしてもらえるといいですねー』
なんか藤崎さんへの応援メッセージが多いような……。
サムネイルには一言、「希」と出ていた。
これ、タイトルなの?
藤崎さんが言ってたとおり、説明文には『愛しい彼女へのプロポーズの曲』とだけある。
(もう、藤崎さん……! これは結構恥ずかしい)
イヤフォンをつけて、再生してみる。
綺麗なメロディの直後に藤崎さんの声が入る。
昨日聴いたときには混乱してて、意味を追うのに精一杯だったけど、落ち着いて聴くと、私への想いが溢れていて、知らず涙がこぼれた。
藤崎さんの声が心に沁み込んでいって、わだかまりや不安を溶かしていく。
確かに、この想いを疑うなんて失礼だ。あり得ない。
社長が怒るのも理解できた。
「ね? なんかもう疑う余地ないでしょ?」
TAKUYAが私を見て、笑った。
私はそれに頷いて、顔を覆った。
藤崎さん……。
今すぐ会いたい。
会って、伝えたい。
私だって、負けないくらい大好きだって。
♪♪♪
「ただいまー」
「おかえり。お疲れさま」
私が会社から帰ると、藤崎さんはいつものように笑顔で出迎えてくれた。
昨日話し合った結果、とりあえず、また藤崎さんの家に来ることになったのだ。
藤崎さんの歌を聴いてから、彼に会いたくて会いたくて仕方がなかった私は、靴を脱ぐのもそこそこに、彼に抱きついた。
「おっと。どうしたの?」
勢いよく飛びついた私を抱きとめてくれながら、藤崎さんが驚いた顔をする。
その綺麗な顔を両手で挟んで引き寄せてキスをする。
そして、その距離のまま、「好き! 好きなの!」と叫ぶと、彼はひどくうれしそうな顔で微笑んだ。
「僕も好きだよ、希」
落ち着いた穏やかな声で藤崎さんがささやいてくれる。
「藤崎さん、大好き……」
自分の気持ちを伝えきれていない気がして、そう繰り返すと、彼はくすっと笑って言った。
腰に手を回され、顔を寄せられる。
「どうしたの、希。なにかあった?」
「会社でね、あの曲をもう一度聴いたんです。そうしたら、想いがあふれて……」
「そりゃあ、僕が必死で希を口説き落とすために書いた曲だからね」
「はい。伝わりました。とても」
そういうと藤崎さんはとても幸せそうな顔をしてくれて、本当にこの人は私のことが好きなんだと実感する。
熱いキスが繰り返されて、身体を優しくなでられる。
藤崎さんの手が服の裾から背中に入り込んできて、ブラのホックを外そうとした。
「あーっ、待って! それはご飯を食べてからです!」
そう言ってストップをかけると、藤崎さんが私の肩でがっくりうなだれた。
「本当に君は僕を焦らすのが得意だね……」
ブツブツ文句を言いながらも手が止まる。
「だって、お腹空いたし、ゆっくり落ち着いてしたいんですもん。……明日は休みを取ったんです」
藤崎さんがばっと顔をあげた。
「希もしたいの?」
「はい」
「明日休むくらい?」
「……はい」
かぁっと頬が熱くなる。
急に機嫌を直した藤崎さんは、鼻唄を歌いながら私の手を引いて、リビングに連れて行った。
「じゃあ、さっさと食べようよ」
二人で食事を用意すると、並んでソファーに腰かける。
ご飯を食べている間も藤崎さんは、私の肩を引き寄せて頬にキスしたり、腰をなでたり、忙しない。
「もうっ、藤崎さん! 落ち着いて食べましょうよ」
「落ち着いてなんかいられないよ。希がかわいすぎて」
「もう、なに言ってるんですか!」
甘く熱い瞳に見つめられて、蕩けそうになる。
と、また口づけられた。
そして、最後の一口を食べ終わった瞬間に、押し倒された。
そして、休みを取ったなんて言わなければよかったと思うほどに、デロデロに愛されて、藤崎さんの愛を思い知った。
もう降参。
もう疑うことなんてできない。