私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
「目が腫れちゃったね。冷やした方がいい」

 藤崎さんが私の目もとにそっと触れる。熱くなっていた私の肌には、その指は冷たくて心地よく感じた。

(誰のせいだと……!)

 私が睨むのをものともせず、藤崎さんは「濡れタオルを持ってきてあげる」と立ち上がって、控室を出ていった。
 私はそれを見送って、ぼんやりした。
 まったく状況がつかめない。

(藤崎さんはなんでまた来たの? 彼は何を考えているの? なんでキスなんか……)

 そして、一番わからないのは、私がそれに対してどういう感情を持ったらいいのか。
 ひどくて、優しくて、やっぱりひどくて、振り回されて、どうしたらいいのかわからない。
 だって、昔からずっと憧れていた人。口をきいてもらえるようになって、有頂天になって、曲を書いてもらえて、ますます好きになった。
 彼はそんな人だったのに……。

 藤崎さんがタオル片手に戻ってきた。
 出演者用に用意してある冷やしたタオルだ。
 それを私の目もとに当ててくれる。
 腫れた目の熱を吸い取ってくれて、気持ちがいい。

「落ち着いたら、帰ろう」
「え?」
「その顔じゃ、人前に出られないだろ? 不審に思われるよ?」

 部屋の鏡を見ると、確かに号泣したのが丸わかりの腫れぼったい目に、化粧が落ちまくりのひどい顔。
 悔しいけど、確かにこの顔はヤバい。
 でも、藤崎さんと帰るなんてあり得ない。
 きっぱり拒否する。

「一人で帰れますから!」
「その顔で電車に乗るの? 僕は車で来たから乗せていけるよ?」
「でも……」
「いいから、おいで」

 結局、逃げないようにガッチリと手を繋がれながら、彼の車に連行された。


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