私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
 車に乗せられて、しばらくして、自分の家に向かっていないことに気づいた。

「どこに向かってるんですか?」
「僕の家」
「送ってくれるんじゃなかったんですか?」
「君の家を知らないし、そこに送るとも言ってない」

 しれっとそんなことを言う藤崎さんは、やっぱりこの間までやり取りしてた人とは別人のようで、私はまた騙されてしまった。
 仕事上の関係だから、当たり前だけど、節度を持った態度とやり取りで、こんなふうに傲岸な様子は見せなかった。

(これが本性なのかな?)

 なんとなくがっかりしてしまう。
 そりゃあ、これだけ突出した人気のアーティストだから、もっとわがままで傲慢でも不思議はない。でも、藤崎さんは違うと思っていたのに。
 彼のことをなにも知らないくせに、夢を見てた。
 でも、実際、尋ねてみると、あっさり同意された。

「なんか性格変わってませんか?」
「そう? これが素だよ」
「そうですか。騙されていた気分です……。もうどこでもいいから降ろしてください」
「いいよ」

 抵抗されるかと思ったら、あっけなく車が止まった。
 窓の外を見ると、どこかの個人宅の駐車場。

「ここ、どこですか?」
「僕の家。ちょうど着いた」
「なんで!」
「話があるから」
「話?」
「うん、とりあえず、中で話そう」

 藤崎さんはそう言うと、さっさと車を出て、助手席のドアを開け、私を家まで引っ張っていった。

(藤崎さんの家……)

 イメージ的にマンションかと思ったら一軒家だった。白い壁のモダンなデザインの四角い家。
 こんな都心にこんな豪邸なんて、さすがカリスマアーティストだわ。
 感心して見ている間に、藤崎さんはセキュリティを外して、白木のドアを開けた。

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