私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~
「どうぞ」
「おじゃまします」

 天井が吹き抜けになった広い明るい玄関でついキョロキョロしてしまう。
 グレーの大きめのタイルが敷き詰めてある土間で靴を脱ぐと、藤崎さんがスリッパを出してくれた。
 上がってすぐの白い壁にはピカソの線画が飾られてあり、私の背丈ほどある観葉植物、その先にはこげ茶の板張りの廊下が続いている。
 私の手を引き、藤崎さんはリビングに通してくれた。
 ライトグレーのグラデーションで統一されたその部屋は、片面に八十インチはありそうな大型の埋め込み型のテレビがあり、反対側には現代アートが飾られている。差し色に赤や黄色が使われていて、シンプルで落ち着いているのに、どこかポップな部屋だった。
 藤崎さんはテレビと向かい合う四人掛けのソファーに私を座らせると、保冷剤にタオルを巻いたものを持ってきてくれた。

「ほら、これで目を冷やしなよ。明日ひどいことになるよ」
「ありがとうございます」

 有り難く目を瞑って、保冷剤を目に当てる。
 まだ少し熱を持っていた瞼がひんやり冷やされる。
 その状態の私に、藤崎さんが聞いてきた。

「コーヒー飲む?」
「いえ、おかまいなく……」

 藤崎さんにコーヒーを淹れさせるなんてと、咄嗟に恐縮すると、彼はぷっと吹き出した。

「無理やり連れてこられて、おかまいなくって。かわいいね」

 唇に微かに触れるだけのキスをされた。
 目を塞いでいるから、彼の表情は見えないけど、バカにされた気がする……。
 それにいったい何度目のキスだろう? 外国人じゃないんだから、気安くキスしないでほしい。
 憤慨して保冷剤を外し、藤崎さんを睨むと、「ほら、ちゃんと冷やさないと」と保冷剤を目に戻された。

「僕が飲みたいだけだから、嫌いじゃないなら、コーヒー淹れるよ」
「……嫌いじゃないです」

 私の答えに藤崎さんが笑った気配がして、離れていった。
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