あなたに、キスのその先を。
「……正直少し前まではたまに味気ないな、と思うこともありました。……ですが――」
 私はさっきの質問への答えをくださっているんだとハッとする。

 何となく直視するのは恥ずかしくて、私の手をギュッと握ってくださっている修太郎(しゅうたろう)さんの手に視線を落としながら私は彼の言葉に耳を傾けた。

「ですが、今では――先日のように好きな女性が可愛らしく酔っているのを誰にも気兼ねすることなく連れ帰ることが出来るので……一人も悪くないなと思えるようになりました」

 そこで私が先の晩のことを思い出してビクッとしたのを見て、クスクスお笑いになる。

「あのっ修太郎さん、お願いですっ。どうかあの夜のことは……忘れて、ください……」

 どう考えてもあの日の私は醜態をさらしたとしか思えない。

 初めての飲みの席で、呂律(ろれつ)が回らないほど酔っ払って……挙句の果てに夢と現実(うつつ)の違いが分からなくなって色々告白(やらか)してしまったとか……恥ずかしいにもほどがあるっ。

 余りに恥ずかしくて、ふるふると震えながらそう言ったら、ちょうど車が信号待ちで止まった。
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