あなたに、キスのその先を。
「……日織(ひおり)さん、僕はまた……」

 そこまで言って、唇を噛むようにして言葉を止めると、修太郎(しゅうたろう)さんは私から身体を離して「ごめんなさい……」とつぶやかれた。

 私は、咄嗟(とっさ)に赤くなった右手を修太郎さんから隠すように左手で包んで、「私のほうこそ……さっきはわざと修太郎さんにひどいことをしてしまいました。すみません」と謝る。

 修太郎さんの豹変(ひょうへん)ぶりを肌で感じたのは今回で二度目。

 それは、どちらも……たぶん修太郎さんが強く嫉妬(しっと)なさったときで。

 確かにどちらもすくんでしまうほど怖かったけれど……でも、(こと)、今のに関しては、最初に修太郎さんを挑発したのはまぎれもなく私自身だから。

 許婚(いいなずけ)の話を出される辛さは私にも痛いほど分かっているはずなのに、どんな理由があっても、あんなことをしてはいけなかった。

「修太郎さん、私、なんだか自分ばかりが一方的に貴方のことを好きみたいで……とても寂しかったんです。私ばかりドキドキしているみたいなのが(くや)しく……悲しくて……。修太郎さんにも苦しい思いを経験して欲しいと、自分勝手なことを思ってしまいました。……最低です」

 そこで目端(めはし)を濡らす涙をぬぐって修太郎さんを見つめると、私は彼の左手を両手でギュッと握った。
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