あなたに、キスのその先を。
 慌てて塚田(つかだ)さんの笑顔から視線をそらすと、「か、片付けていただいてどうも有難うございますっ。すごくすごく嬉しいのですっ!」と早口に言う。

藤原(ふじわら)さん?」

 そんな私の態度に、塚田さんが気遣わしげに声を掛けてくださるのが、またしんどくて。

「あのっ、カバンは……引き出しの中で構いませんか?」

 それを誤魔化すように、右手一番下の、少し大きめの引き出しを指差しながら問う。

「あぁ、僕は本当、駄目な上司ですね。貴女に荷物を持たせたまま挨拶回りをさせてしまっていました。――カバンは……もちろんそこでも構いませんが……女子更衣室のほうにロッカーもありますので……」

 塚田さんはそこまで言って、まだ挨拶にいけていない管理係のほうへ視線を転じると、そこで一人黙々(もくもく)とデスクワークに(いそ)しんでいる女性に声をかけた。
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