あなたに、キスのその先を。
「兄さんは()()()日織(ひおり)さん一筋でしたから」

 私たちの様子をご覧になられていた健二(けんじ)さんが、意味深な笑みを浮かべて口を開かれた。

「ずっと?」

 そういえば今までも要所要所で「ずっと」と言われ続けていた気がする。

 そこまで深く考えてこなかったけれど、ずっと、ってどのくらいの期間なのかな?

 私が修太郎さんと初めて出会ったのは、市役所に勤め始めた四月からだから……実質、まだ二ヶ月余り。
 ずっとって…出会ってからの期間のことを指すんでいいのかな?

 以前修太郎さんに「日織(ひおり)さん以外の女性を自分のそばに置くことなど、貴女と出会った日からずっと、一度も考えたことはありません」と言われたことがある。
 あれにしても、たかだか一月(ひとつき)余りの時間を指すには不自然な言い回しだったような気が。

 どう取るのが正解……?

 パンをお皿の上で一口大に千切って食べようとしていた私は、思わずその手を止めて健二さんを見つめた。

「兄さん、もしかして……まだ話してないんですか?」

 私の視線を受けた健二さんが、修太郎(しゅうたろう)さんに視線を流されてから、彼の反応をご覧になられて「マジか」とおっしゃった。

「てっきりもう話してるんだと思ってましたよ」

 呆れ顔で言いいながら、鴨肉を一切れ口に運ばれる。
 それを飲み込んでから、炭酸水で口を潤されると、健二さんは私をじっと見つめていらした。
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