あなたに、キスのその先を。
日織(ひおり)さん、本当にすみません」

 結局、そんなスッキリしない私の気持ちを察してくださったのは、修太郎(しゅうたろう)さんで。

 不意に繋いだままの手をツイ……と引っぱって、私の気を惹かれると、申し訳なさそうに謝っていらした。

「あ、あの……」

 すみません、私、もしかして不機嫌なお顔になっていましたか?と小声で問えば、「いいえ、僕が日織さんと同じことをされたら、と思ったらかなりイラッとしてしまっただけです」

 そこまで告げて、私にしか聞こえないくらいの小声で

「僕自身も、計画を知らなかったために高橋(健二)と日織さんが近付くたびに無駄にヤキモキさせられてしまって……貴女を酷く責め立ててしまいました。――本当に申し訳なく思っています」

 言われた瞬間、会議室でのことを思い出した私は、恥ずかしさに目線を下向けた。

 そんな私には気づいていらっしゃらないのか、修太郎さんは健二さんを睨まれると、「僕のため、というのは有難く思いましたが、やはりもっとやり方がなかったのか?と腹立たしくもありますね」と付け加えられた。

 修太郎さんからの厳しい視線を受けた健二さんが、
「――え? 俺?」
 非難を受けることは全く予想もしていなかったという表情で驚かれるのへ、修太郎さんは盛大な溜め息をおつきになられた。

「日織さんと高橋は仲がよかっただろう? そんな人間の、存在自体が嘘だったと言われたら、お前、どう思う?」

 修太郎さんがそうおっしゃると、健二さんはハッとしたお顔をなさった。

「すみません、日織さん。俺、そこまで考えられてなくてっ」

 高橋であったときと、健二として日織さんに接していたときに、さしたる(へだ)たりは作っていなかったつもりではあったけれど、それでもやはり丸っきり同一人格ではなかったと反省なさると、私に頭を下げていらした。

「俺……っていうより高橋か。彼のことを頼りにしてくださっていたのに……本当、すみませんでした!」
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