あなたに、キスのその先を。
日織(ひおり)さん、貴女が泣いていらしたとき、僕はこうして日織さんを抱きしめて差し上げたかった……。でもさすがにロビーでは目立ち過ぎると思ってずっと我慢してしまいました。今思えば人目なんてはばからず抱きしめるべきだったのかも、と後悔しています。頼りない男で本当にごめんなさい」

 耳元で囁かれる修太郎(しゅうたろう)さんの低音ボイスに、私はゾクゾクしてしまう。

「あ、あの……頼りないとかそんな。隠して頂いてすごく、すごく嬉しかったです。それに……」

 私の方こそあんな場所で泣いてしまってすみません……と謝ると、修太郎さんが腕を緩めて私の顔を見つめていらした。

「何故泣いていらしたのかお聞きしても?」

 心配そうなお顔で問いかけられて、私は戸惑ってしまう。
 自分でもどうしてあんなに泣いてしまったのか、実はイマイチ理解できていなくて。

 ただ、ひとつだけ分かっているのは――。
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