あなたに、キスのその先を。
(私の勝手な想像なんですが)

 佳穂(かほ)さんが、ご両親のことを話してくださった際、「修太郎(しゅうたろう)は優しいけれど、少し冷たいところもあるの。――って言っても、日織(ひおり)ちゃんにはそんなことないと思うんだけどね」と言っていらして……。そうなんじゃないかな?という思いは半ば確信に変わってしまった。

 私にとっての修太郎さんは、ある意味過保護すぎるぐらい過保護で、まるでもう一人のお父様のように感じてしまうこともあるのだけれど……他の方へそこまで踏み込んでおられる彼を見たことはないですし。

(私は修太郎さんにとって“特別”な存在なのだと自惚(うぬぼ)れても許されますか?)

 私の正面に座っていらっしゃる修太郎さんの凛々しいお顔をそっと見やりながら、ふとそんなことを思ってしまって。

 実際にはちょっぴりでも多く、そんな(よすが)のような気持ちをかき集めておかないと、緊張で今にも倒れてしまいそうだったから。
 本当は修太郎さんに手を握って頂けたらこんな不安はすぐさま吹き飛んでしまうのですけれど、さすがにこんなかしこまった席でそのような甘えたことは頼めません。そもそも距離もあります。

 今日のために選んだ、清楚に見えるネイビーのワンピースの(すそ)をほんのちょっとギュッと握って、心細さにグッと耐えながら、
(上に羽織ったベージュのジャケット、おかしくないかな)
 とか思うのは、なんだか不安で押しつぶされそうだからでしょうか。

 お父様とお母様は見方になってくださると昨夜確約してくださいましたが、それでも神崎さんを前に、私は身がすくむ思いでいます。
 
 場所は料亭やホテルなどではなく、神崎家(かんざきけ)の大広間で……、私は初めて修太郎さんが幼少期をお過ごしになられたお家にお邪魔しています。
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