あなたに、キスのその先を。
 そういえばお化粧はどうしましょう?

 私、お風呂に入ってスッピンになってしまいました。
 さすがにこのままは恥ずかしいです。でも、気合を入れてメイクするのも何か違う気がして。

 ガサゴソとメイク道具をかき回してから、薄化粧に見える――もっというと落とさないまま眠ることも可能だという売りの――スキンケアパウダーを見つけ出しました。
 買ってはみたものの、使う機会に恵まれなくて、一度試しに使ってみたきりだったものです。
 一度肌に乗せてみたとき、本当にうっすらで、それこそ皮膚が綺麗に見えただけでお化粧をしているようには見えませんでした。
 だから昼間には向かないかな?とお蔵入りしていたものですが、今日のように……例えば入浴後に少し外出を、というときにいいかな?と思っていました。正におあつらえ向きです。

「これなら……修太郎(しゅうたろう)さんにスッピンを見せなくて済みます……よね?」

 そう言えば私、彼にノーメイクの顔をお見せしたことがありません。
 スッピンを見られて幻滅されてしまったら大変です。お泊まりって怖いですっ。

(そのうち、彼に素のままの自分をお見せできる日が来るのかな?)

 ふと考えてみましたが、何だか想像がつきません。

 私は鏡としばらくにらめっこをしてから、ハーフアップにしたために(あら)わになった耳元を見て、ふと大事なことを忘れていたことに気付きました。
 お化粧なんかより大事なことを忘れるところでした!
 私は本当にお馬鹿さんです。
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