あなたに、キスのその先を。
「――日織(ひおり)さん?」

 途端、修太郎(しゅうたろう)さんに怪訝(けげん)そうな声音で呼びかけられて、ハッとしました。

 きゃー、またやっちゃいましたっ!

「ごっ、ごめんなさいっ。ちょっと妄想が暴走を……」

 何だか韻を踏んだ言い訳になってしまいました。

 私の言葉に修太郎さんが一瞬きょとんとなさってから、次いで、声を出して笑っていらして……。

「あ、あの……?」

 オロオロと呼びかけたら、
「貴女といると退屈せずにすみそうです。早く一緒に住める日が来るといいのですが……。――じゃあ、僕はリビングでテレビを観ていますので、ゆっくり汗を流してくださいね」

 い、いま……さらりと気になることを言われた気がします。入籍を済ませたのに……一緒に住めない理由はなんなのでしょう?

 修太郎さんの背中をぼんやりと見送りながら、私は一人小さく首を傾げました。
< 289 / 358 >

この作品をシェア

pagetop