あなたに、キスのその先を。
 真正面から私の目をじっと見つめていらっしゃる修太郎さんに、「あの……よ、呼び捨てはやめられたのですね」と目を()らしつつ別のことを言って誤魔化(ごまか)してみます。

 修太郎さんの視線が余りに痛くて、目線だけでも彼から逃げようと試みました。

「貴女には()()と言うときに呼び捨てする方が効果がありそうですので、そうすることにしただけですよ? ――それでね、()()、僕はそんなことではぐらかされたりする気はないんですが? 何で顔、隠してるんですか?」

 や、やはり無理……ですよ、ね……。

 今が正に()()と言うときだという風に「日織」と低い声で呼びかけられた私は、修太郎さんの思惑通りまんまとビクッと身体を震わせて、覚悟を決めました。正直にお話します……。

「あの……実は……私、その、お風呂にお、お化粧を持っていくのを忘れてしまいまして……それで……今、すっぴんなので」

 一生懸命事情をお話したので、開放していただけるかな?と期待したのですが……。
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