あなたに、キスのその先を。
「本当、食べてしまいたくなります」

 修太郎さんのうっとりしたようなお声を聞きながら、私は今から起こることに思いを()せて、ドキドキに包まれる。

 修太郎さんの大人の色気を感じさせるシプレ系の香りと、私が身に(まと)わされた甘い桃の香り。
 ふたつが溶け合ったらどんな香りになるんだろう?と考えたら、頭の芯が未知の刺激にソワソワとざわめくのを感じた。

「私……桃の香りより修太郎さんの香りに包まれたいです」
 半ば浮かされたようにそう呟けば、「奇遇ですね、僕もその逆のことを思っていました」と微笑まれた。

 私は桃の香りに包まれた修太郎さんを想像して、(たま)らなく恥ずかしくなってしまう。

 相手を自分の香りに染め上げるのって、なんて蠱惑的(こわくてき)な行為なんだろう……。

 私は今塗られたばかりのクリームを擦り寄せるように、修太郎さんの剥き出しの上半身にそっと身体を寄せた。


  END(2019/11/15-2019/11/17)
< 352 / 358 >

この作品をシェア

pagetop