あなたに、キスのその先を。
 公園緑地係はよその係よりメンバーがかなり若くて……林も森重もまだ二十代後半。

 役職的にも年齢的にも一番上の塚田(つかだ)さんの一声は絶対なのか、それ以上は無理強(むりじ)いをしていらっしゃらなくなった。

「ごめんね」

 林さんが素直に謝って、私にソフトドリンクのページを開いたメニューを渡してくださる。

 それを会釈(えしゃく)しながら受け取りつつ、
「ありがとうございます」
 隣の塚田(つかだ)さんに、小声でお礼を言うと、「無理しなくていいですからね」と微笑まれた。

 間近で見る不意打ちの笑顔に、私の胸はドキドキと早鐘(はやがね)を打つ。

(つ、塚田さん、いきなりはずるいのですっ)

「あ、あのっ……林さん、初心者でも飲みやすいお酒ってありますか?」

 余りに心臓がバクバクし過ぎて、このままだとしんどいと思った私は、それから逃れたくて思わずそう言ってしまっていた。

 前にお父様が、お酒は緊張をゆるめたり、人間関係を円滑に進める効果があると(おっしゃ)っていらしたのを思い出したから。

(それに……よく考えてみたら私、子供の頃から咳が出るとお母様お手製の花梨酒(カリンしゅ)を飲まされていたのですっ)

 いわゆる薬膳酒(やくぜんしゅ)(たぐい)ならば他にも数種類触れたことがある。

(だから、多分……大丈夫なのですっ)

 私のその言葉は、はからずも眼前の二人のお気持ちを()む形にもなるものだったので、場の空気が少し(なご)んだ。
< 41 / 358 >

この作品をシェア

pagetop