あなたに、キスのその先を。
 塚田(つかだ)さん、年の頃は三十代前半くらいだろうか。
 眼鏡の奥の優しい瞳に見つめられて、私は思わずドキドキしてしまった。

 それを誤魔化すように一歩下がって彼から距離を取ると、
「が、頑張りますので! ご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどを宜しくお願いし、まっ……」
 胸の高鳴りを(さと)られまいと一生懸命まくし立てたら、最後の最後に舌を噛んでしまった。

(うー、私ったらどこまでも恥ずかしいのですっ!)

 強い羞恥心(しゅうちしん)に、お辞儀の姿勢のまま動けなくなってしまった私に、不意に押し殺したような笑い声が降ってくる。

「……いや、失敬っ。藤原(ふじわら)さんがあんまり可愛らしいものだから……つい」
 未だ笑いを抑えきれないのか、時折言葉の端々に震えを(にじ)ませながら、塚田さんが言う。

 男性から可愛らしい、なんて言われたことがなかった私は、うつむいたまま、思わずその言葉に肩をピクッと震わせて反応してしまった。
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