『191ヶ月13日の命』
彼が亡くなった2日後の3月2日、私は母と彼の家に行きました。
部屋に入ると、数日前まで笑っていたそのままの顔で幸せそうに眠る彼の姿がありました。
今にも起きてくれそうでした。

心の中で"ひい君、何で…何で起きてくれへんの"と何回も何回も問いかけました。

彼の名前を何回呼んでも、どれだけ泣いても彼が目を覚ます事はありません。
もう前のように彼の元気に笑っている姿が見られなくなるという信じたくない現実を前にし、無言で眠り続ける彼の前で、我慢しようと思っていたはずの涙が思わずこぼれてしまいました。
本当に彼の事が大好きだった私に、突然こんな事故が起きてしまい、助からなかった命のことが悔しく、悲しく、やるせない思いが心にのしかかり、心臓が砕けそうでした。

彼の母上様が「奇跡を信じていたから、温かい手を握らせてあげられなかった事すごく後悔している。ごめんね。これから頑張ってね。」と一生懸命私に話しかけてくれました。
何も悪くないのにずっと"ごめんね"を繰り返しておられました。
彼の母上様や御家族の辛さは私より何倍も大きいのに、ずっと励ましてくれる姿を目にし、もし自分の子供や家族がいきなり命を落としたらと逆の立場で考えると私には絶対に言えない事だと思い、本当に素敵な母上様なんだなと尊敬しました。
私は母上様のようにどれだけ辛くてもちゃんと周りが見え、自分をしっかり持っている大人になりたいと思います。

彼の心に遺っている思い出は簡単に消しゴムで消されてしまうのか…?
彼の心の中に居る私の存在は消されてしまうのか…?

焼け爛れた心の痛みが残る私には彼の中で生き続けたいと思う願望と消されてしまうのではという不安が混ざり合い、自分を見失っていました。
彼の心に私の思い出がーー鉛筆書きではなくーーしっかり刻み込まれていますか?
私の心には彼の思い出がちゃんと深く刻み込まれています。
何があっても絶対に消す事は出来ない、どんなに小さい思い出も大きい思い出も一生消えないぐらい力強く、深く、大きく彼は私の中に彫ってくれました。

彼は意識がなくなってからの13日間、本当に辛くしんどかったと思います。
けれど彼が約2週間の間、彼の帰りを待つ皆の期待に応えようと頑張ってくれた事、これが彼の人生最後の努力であり、彼からの最後のメッセージだったのかなと思うと私はすごく嬉しいです。
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