私のおさげをほどかないで!
***

「――泣くなよ凜子(りんこ)

 しばらく沈黙が続いて、車が赤信号で停車したのを見計らったみたいに、奏芽(かなめ)さんがポツンとつぶやいた。

「……俺も、さ。年甲斐もねぇ恥ずかしいこと言っていいか?」

 今まで私の方をあまり見ようとしなかったのに、しっかりと視線を合わせてきて、ついでに腿の上に載せていた手をギュッと握られた。

 驚いて瞳を見開いた瞬間に、限界まで溜まっていた涙がポロリとこぼれ落ちる。
 そのことに気づいただろうに、奏芽さんは敢えて何も言わなくて……そのまま話を続けてくれた。

「さっき……凜子が俺に脈があるかもって教えてくれただろう?」

 言われて涙でぼんやり霞んだ視界のまま、小さく首肯する。頭を動かした途端、またポトリと涙が落ちる。

「俺さ、こんなだから結構沢山の女と付き合ってきたわけ」

 言われた瞬間、言いようのないモヤモヤがこみ上げてきて、涙目のまま思わず握られた手を引こうとしたけれど無理で。

「まぁ、怒るなよ。過去の話だ」
 ってそういうことをサラリと言えてしまえるところが嫌なんだと、何で気づけないんだろう。バカっ!
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