私のおさげをほどかないで!
「――こっち見ろよ、凜子(りんこ)

 私が後ろめたさで奏芽(かなめ)さんの方を向けないのを分かっていて、彼はそんな意地悪を言って私を追い詰める。

 彼のほうを見られなくてじっと動けないでいたら、頬に手をかけられて奏芽さんのほうを向かされてしまった。

「ね、答えて?」

 本当に奏芽さんはずるい――。

 いつもなら何でもないみたいに「答えろ」って言うはずなのに、本心から聞きたいことは、私に(ゆだ)ねるみたいな聞き方をしてくるの。

 そして私は、奏芽さんにそんな風に聞かれたら……逆に素直にならざるを得なくなってしまう。

「……知って、います……」

 何だか居たたまれなくて思わず視線だけ奏芽さんから逸らすと、それでもポツン……とこぼすように何とかそうつぶやいた。

 のぶちゃんは幼なじみのお兄ちゃんです。
 母からの人望も厚くて……私にとっては家族みたいな存在だから……。
 だからお引越しを手伝ってもらったんです。
 そういうのがなかったら、きっと彼にも住まいは知られていないと思います。

 そう言い訳めいた言葉が頭の中をぐるぐる回るのに、何故か何ひとつ声にすることが出来なくて――。

「だったら……」
 ややして、奏芽さんが溜め息を落とすみたいに……。でも何故か嫌とは言えない強さをはらんだ声音で……。
「――俺にも教えたって、問題ねぇよな?」
 って言った。 
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