私のおさげをほどかないで!
 奏芽(かなめ)さんが軟派なら、目の前の彼――雨宮(あまみや)さんは硬派代表のようで。

「だから。電話でも何度も言っただろ。今日は連れが一緒だからって」

 奏芽さんが溜め息混じりに雨宮さんに言えば、「何度言われたって実際()の当たりにしないと信じ難かったんだから仕方ないだろう」

 吐息を落としながら、「本当に個室じゃなくてカウンターでいいのか? 今なら嫁もいるし――」と心配そうに私をちらりと見遣った。

「ああ、カウンターでいい。――まだ俺、彼女から付き合ってもいいってOKもらってないからな。個室に2人きりはまずいだろ」

 奏芽さんのセリフに、今度こそ雨宮さんが瞳を見開いたのが分かった。

「ちょっ、お前っ! 本当にあの()()()()鳥飼(とりかい)かっ? そっくりな別人じゃないよなっ!?」

 驚きのあまり、手まで止まってしまった雨宮さんに、私は無意識に奏芽さんと彼とを見比べてしまった。

「うるせぇよ。俺だって自分で自分が分かんなくて戸惑ってんだ。いちいち指摘してくんな」

 奏芽さんが珍しく動揺しているように見えて、私は思わず「奏芽さん?」と声をかける。

「――凜子(りんこ)。……頼むから今はあんまりこっちを見てくれるな」

 嘘。
 奏芽さんが赤くなってる。

 その様を見て、私もつられたように恥ずかしくなってうつむいた。
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