私のおさげをほどかないで!
 前に、奏芽(かなめ)さんから、私を妹さんと重ねて気になった、と言われたことがあったのを思い出したから……。
 そのあと、妹にキスしたいと思ったことはないから、その言葉は前言撤回だって言われたけれど……雨宮さん(第三者)からも同じように言われるってことは……と考えてしまってソワソワする。

「前来てくれたとき、音芽(おとめ)ちゃんもだいぶ髪の毛伸びてて、彼女みたいにお下げにしてたんだよ」

 言われて、私は思わず「えっ」と声を出してしまっていた。

 奏芽さんが執拗に私の髪の毛を引っ張ったりしてくるのって……そういう?

「あの……奏芽、さん……」
 ソワソワと落ち着かない気持ちで奏芽さんの顔を見つめたら、「雨宮(あまみや)、ちょっと黙っててくれるか?」と、奏芽さんの低音が響いた。

凜子(りんこ)
 次いで、静かな声音で名前を呼ばれて顔を見つめられた私は、何だかいたたまれない気持ちになって、思わず視線をそらす。

「――な、頼むからこっち見て?」

 奏芽さんが「見ろ」じゃなく「見て?」と言って……。
 その声にすがる様な響きを感じた私は、おずおずと顔を上げた。

「被ってたとしても……髪型の雰囲気だけ、だから」
 恐る恐る伸びてきた奏芽さんの手が、私の右サイドに寄せて束ねた三つ編みに触れる。

 さっき、車で左横に奏芽さんが座って……首筋が見えてしまったことを指摘された私は、無意識にお店では彼の右隣に陣取ったのだけど……今回はそれが(あだ)になってしまった。

 そっと髪の毛に触れられた私は、期せずしてビクッとしてしまう。

「やっ」
 思わず小さく抗議の声が漏れて、奏芽さんが指に巻きつけていた毛先を慌てて離した。
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