私のおさげをほどかないで!
気のせい?
 奏芽(かなめ)さんとお付き合いさせていただくようになったのが、夏。

 クリスマスやお正月といった、恋人同士には堪らない行事を経て、今は1月初旬です。

 厚着しても身体の芯から冷え込んでくるような寒さの中、モコモコに着込んだ完全武装で私はバイトに向かっている。

 ワインレッドのタートルネックセーターは、マフラーを巻かなくても首元をほかほか温めてくれる優れもの。
 それに、タータンチェックのワイドパンツを合わせて、ミディアム丈の白いダッフルコートを羽織る。
 本当は前ボタンは全て開けていた方が可愛いのは分かっているけれど、寒くて無理なので上から下まで全てのトグルボタンをきっちり留めて、しっかり寒風をシャットアウト。
 足元は、くるぶし丈のワイドパンツの下に、厚手のタイツを履いて、ショートブーツで防寒に努めていて。
 タートルネックで保護された首には、さらに当然のようにマフラーを巻いているの。

 奏芽さんがお仕事のないときならば、寒がりの私を暖かい車で送り迎えしてくれるんだけど、今日は連休明けで患者さんが多いらしくて無理で、頑張って歩いている感じ。
 奏芽さんと出会う前はこれが普通だったのに、ダメだなぁ。甘やかされるとどんどん身体はそれに慣れてしまうみたい。

「うー、寒いっ」

 もふもふの手袋に包まれた手で、奏芽さんからクリスマスにプレゼントしていただいたコートの襟元をかき合わせるようにして身体を縮こまらせると、鈍色(にびいろ)の空を見上げた。

 今にも雪が降り出しそう!

 アパートからバイト先まで徒歩5分足らずなのに、歩く距離が短すぎるのが逆にいけないのかな。
 ちっとも身体が温まってこないの。

 バイトモードできつめに編んであるおさげのせいで、奏芽(かなめ)さんとデートする時よりも頬に風が当たりやすいのもいけないのかもしれない。

 そんな些細な差を考えてしまうくらいには、私、寒さ慣れしていなくて。だって私の地元、ここより冬がはるかに暖かかった気がするんだもの。

< 174 / 632 >

この作品をシェア

pagetop