私のおさげをほどかないで!
 そういえばこのところ奏芽(かなめ)さん、私と車に乗る時、大抵腕まくりしている気がする。

 あれって……彼には暑すぎるってことだよ、ね?

「ごめんなさいっ」

 余りにもさり気なくて、今まで気づかなかった。

 眉根を寄せて奏芽さんを見上げたら「バーカ。凜子(りんこ)が暖かけりゃ俺はそれでいいんだよ」ってそっぽを向くの。

 こういう時の奏芽さんって、本当照れ屋さんで。

 心臓がキュッと痛くなるぐらい、そんな奏芽さんのことが大好きだと実感させられてしまう。

 奏芽さんの温かい手に直接触れたくて、私、お迎えがある時はわざと手袋をしないの。
 その手をそっと伸ばして彼の指先に触れたら、すぐにギュッと握り返してくれた。

 奏芽さんの手、やっぱり大きくてとっても温かい。

「行くぞ」

 こっちを見ずに私の手を引いてズンズン歩く奏芽さんの、少し長めの金髪を見ながら、私は何て幸せなんだろうって思ったの。

 幸せすぎて……谷本くんからの不穏な言葉を忘れてしまうくらいに――。
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