私のおさげをほどかないで!
 四季(しき)ちゃんのスマホから保留音が微かに聴こえてきて、その音にハッとして「四季ちゃんっ!」って声を出した時には、奏芽(かなめ)さんが電話口に出てきた後だった。

 あーん、奏芽さん、ごめんなさいっ。

 お仕事中に大した用じゃないのに電話しちゃうとか!
 あまりに非常識なことをしてしまった気がして、泣きそうになりながら四季ちゃんを見詰めたら、「凜子(りんこ)ちゃん、自分の口でちゃんと話して!」っていきなりスマホを渡されてしまった。

 あーん、どうしよう! 私の名前でかけちゃってるし、かわったらもう私が自分の意思で電話したとしかっ。

 心の準備もままならないままに、恐る恐る手渡された電話を耳に当てたら、『凜子! 大丈夫なのかっ!?』って、切羽詰まった様子の奏芽さんの声が鼓膜を貫いた。

「あ、あの……だ、大丈夫です……。それより……お、お仕事の邪魔をしてしまってすみませんっ。すぐ切るのでお手隙になられたらメールを見て頂きた……」

 申し訳なさに消え入りそうになりながら、後からで構わないという旨を告げようとしたら、『とりあえず話聞かせろ。このまま突き放されても仕事になるかよ』って低い声で(いさ)められた。

 そ、それはそうです、よね。私が奏芽さんでも同じこと言うと思います。

 奏芽さんの言葉があまりにももっともで、私はグッと言葉に詰まる。

『凜子……』

 そんな私に、再度話の先を促すように奏芽さんの声がかかった。
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