私のおさげをほどかないで!
 正直今すぐどうこうなるわけない問題なのに、本当ごめんなさいっ!

 そう思いながら恐る恐ることの顛末(てんまつ)を話したら、奏芽(かなめ)さんが電話口で舌打ちしたのが聞こえた。

 う。ごめんなさい。緊急の用件じゃないって思いましたよ、ね。
 それこそホント、夕方とかにお会いした時に話すんでよかったって私も思ってます。

「……ごめんなさっ――」

 しゅんとして謝ろうとしたら、その声を(さえぎ)るように『ホント腹立つんだけど』って溜め息をつかれて。

 私はますます申し訳ない気持ちにうなだれる。

 そんな私に、『俺が怒ってる理由、凜子(りんこ)、絶対はき違えてんだろ』って奏芽さんが言うの。

「え?」
 キョトンとして言ったら、『何でこんな大事なこと、もっと早く言わなかった? 何かあってからじゃ遅いだろーが!』って叱られて。
 そのあとつぶやくように『けど、1番ムカつくのは凜子が悩んでるの、気付けなかった俺自身に、だ。ごめんな』って。

 えっと……もしかして……奏芽さん、お仕事の邪魔をしたのを怒ってるわけじゃ、ない?

 ここにきてやっと、そう思い至って。あまつさえ奏芽さんに謝られてしまったことに戸惑って。「あ、あの……っ」って恐る恐る声を掛けたら、まるでそれを断ち切るみたいに『で、今日は大学終わるの何時?』って話題を変えられてしまった。

 確か今日は4時限までだったから……16時過ぎには終わる……はず。

 そう思って「16時過ぎです」って答えたら、しばしの沈黙ののち、『この電話、凜子の番号じゃねぇけど、片山さんの?』って聞かれて。
 私は奏芽さんの病院の電話、ナンバーディスプレイがついてるんだ……ってどうでもいいことに感心してしまう。

 それでやや反応が遅れて、慌てて「は、はいっ」って言ったら、『じゃあちょっと片山さんにかわってもらえる?』とか。

 奏芽さん、四季(しき)ちゃんに何の用だろう。
< 193 / 632 >

この作品をシェア

pagetop