私のおさげをほどかないで!
 今のところ私が妙な気配を感じるのはバイト先とアパートへのルートのみ。

 大学でそういう気配は感じたことがないの。

 だから安全とは言えないのは分かっているけれど、そもそもあの一連の出来事だって、考えてみたら何か実害があったわけじゃない。

 私の勘違いだったとしたら、みんなを巻き込んで私、何しちゃってるんだろう。

四季(しき)ちゃん……」
「ごめんなさい、とかそういう言葉はなしよ!」

 言おうとした言葉を先んじて封じられて、私は言葉に詰まって眉根を寄せる。

「そもそも! 不安な思いしてるの、凜子(りんこ)ちゃんのせいじゃないからね? 凜子ちゃんをそんな気持ちにさせる相手が悪いの! 私は被害者よ!ってドーンと構えてなさい!」

 ポンポンと頭を撫でられて、今までこんな風に同年代の同性の友達から気遣われたことがなかった私は、思わず目端にじんわり涙を溜めてしまった。

 人の優しさが、こんなに心をギュッと掴むなんて、私、知らなかった……。

「不安だったね。よしよし」

 それをそういう涙だと解釈した四季ちゃんに、ギュッと抱きしめられて、私はますます溢れる涙を止める術を見失って戸惑う。

「大丈夫だよ。みんながついてるからね」

 そのみんな、には四季ちゃんや奏芽(かなめ)さんだけじゃなく、さっき奏芽さんから電話口で告げられた人たちも含まれるのかな。

 私はお会いしたことのない知らない人だけれど、奏芽さんからはしょっちゅう名前をお聞きしたことがあるし、彼が信頼して何かを頼める相手なんだから、きっと頼れる人なんだと思う。

 そういえば電話で、奏芽さん、相手は絶対私のことがすぐに分かるって言ってくれたけど、どういうことなんだろう?

 ふと、そんな風に思ってしまった。
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