私のおさげをほどかないで!
***


 教室内はちゃんと冷暖房完備で、この部屋も割と温かくしてある。それでも何となく足元が寒い気がした私は、鞄からいつも持ち歩いている膝掛けを取り出して足に載せた。

 そんなに音を立てて動いたつもりはなかったけれど、衣擦れの音が耳障りだったのかな?

 先刻の男性が私の方をジッと見てきて――。

 その視線と目があって、思わず条件反射で小声でごめんなさいと謝って会釈したら、意外にもニコッと微笑み返された。

 良かった、気分を害されてはいないみたい?

 そう思ってホッとしていたら、その人がおもむろに立ち上がって。

 「なんだろう?」と思っていたら「隣、いい?」って聞かれたの。
 あまりに想定外のことに、良いとも悪いとも答えられずにいるうちに、さっさとすぐ横に腰を下ろされてしまった。

 こんなに沢山席が余っているのに、わざわざすぐ隣とか……ものすごく落ち着かない。

「あ、あの……せめてひとつ分……」

 席を空けて欲しいと言おうとしたら、「実は僕、教科書(テキスト)忘れちゃって。もし良かったら見せてもらえない?」って畳み掛けられてしまった。

 教科書を持って来ていないとか……。

 私だったら教授に見つかりたくないから、そんな時は絶対にもっともっと――それこそ一番後ろの席に着くかもって思って。
 そう考えたら、わざわざ彼が2列目を陣取っていることに少し違和感を覚えてしまう。

「あの……教科書持ってないのって、教授、気づいたら良い気持ちしないと思うので……もっと後ろの席に行かれた方が……」
 良いんじゃないですか?って言おうとしたら「じゃ、後ろさがろっか」っていきなり手を握られて、言いようのない嫌悪感に襲われた。
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