私のおさげをほどかないで!
 通りすがり様、見るとはなしに家全体の外観を眺めていたら、その敷地から寒風が吹き抜けて来て、私は寒さに上着の前をギュッと合わせた。

 大学やコンビニからの行き帰り、この空き家の辺りだけちょうど民家も途切れ途切れで薄暗さが怖かったけれど、誰かが移り住んできてくれたなら明るくなっていいかもしれない。

 ふと見上げた空はまるで太陽を覆い隠すかのような波々の波状雲。
 雲は陽光を受けているのか、うすらぼんやり光って見えるけれど、地上はお日様の恩恵を受けられなくて寒い。

「早く暖かくならないかなぁ」

 思わずつぶやいたら余計に寒さがいや増した気がして、私は頭をフルフルと振って気持ちを切り替える。

 私の誕生日の4月頃になれば、まだ寒さは残ってはいるものの、今よりは大分日差しが(ぬる)んできているはずだ。

 4月には私も2年生に進級して……ついでに待ちに待った二十歳(はたち)になる。

 成人したら私、奏芽(かなめ)さんと一緒にお酒を(たしな)むこともできるようになるんだよね?

 それから――。


 ふとその先を考えて、私は恥ずかしさに真っ赤になった。

 は、二十歳(はたち)になったら……私……奏芽(かなめ)さんと……。

 散々、「凜子(りんこ)早く二十歳(はたち)になれ」と耳元でささやかれ続けた身体は、条件反射のように二十歳(はたち)という言葉に過剰反応するようになってしまっていた。

 もしかして、これも奏芽さんの計算だったりするんだろうか。

 だとしたら、思惑通りですっ。


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