私のおさげをほどかないで!
「お陰様でこっちは(りん)の誕生日がタイムリミットだって判った分、それまでにキミをさらえば僕のものに出来るんだって思えて、とても有難かったよ? ――本当、同じ男として彼の行動は理解不能だよ!」

 奏芽(かなめ)さんの、私に対する思いやりなんて、この人に分かってたまるもんか。

 表向きではそう声に出さずに反論しているのに、どこか心の片隅では本当に異性として魅力がないと呆れられているだけだったらどうしよう、って小さな傷口がジクジクと痛んで。

「――あ。ねぇ、あの男、ホントは年の離れた凜のこと、()()()()好きなわけじゃなかったんじゃない? 妹か……、そうだなぁ。若くて綺麗な可愛らしいお人形さんぐらいにしか思われてなかったんだよ、きっと」

 次いでニヤリと笑って告げられた言葉に、私は「そんなことない!」って否定したい気持ちで一杯で……悔しさに身体がフルフルと震えて。

 それを覆い尽くすように、そんなこと、あんたなんかに言われなくたって、私が一番不安に感じてるんだから!って思いが溢れ出した――。

 気がついたら、私は怒りと嫌悪感をあらわにして「いい加減にしてっ!」と叫んで男の手を払いのけて突き飛ばしていたの。

 男の、奏芽さんと私とのかけがえのない時間を否定するような物言いと、下卑た笑顔に触れるのが心底嫌で、逃げ場なんてないという現状も忘れてそのまま這うようにベッドの端っこに膝行(しっこう)してうずくまる。

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