私のおさげをほどかないで!
***

 金里(かねさと)と名乗った男が、私をここに連れてきて初めてそばを離れて、私はほんの少し肩の力を抜いた。

 力任せに掴まれた頬がジンジンと痛んで、でもそのお陰で辛うじて意識を保てている気がするの。

 今、何時だろう。

 ここに来てどのぐらい経ったんだろう。
 ノロノロと身体を起こして、腕時計に視線を落とす。


 携帯を持つようになっても、腕時計で時間を確認する癖は抜けなくて。

 時刻は8時40分になろうかというところ。
 いつもならとっくに大学に到着していて、奏芽(かなめ)さんに「着きました」と連絡を入れている頃だ。

 行ってきます、のメッセージはいつも通りにしたから、もしかしたら奏芽さん、私の異変に気付いてくださった頃かもしれない。もっと言えば、四季(しき)ちゃんだって!


 携帯……。
 玄関に置き去りにされたままのはずのそれは、多分電源、切られていないはずだ。
 奏芽さんが先日入れた追跡アプリを立ち上げてくださったなら……望みは十分にある。

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