私のおさげをほどかないで!
 ふと見ると、くだんの男女は衛生用品のあたりにいて女性がキャーキャー騒ぐのへ、男性がシーッと口元に手を当てる。

 案外見た目に反して常識的なところもあるのかな?と思ってから、そういえばあの人たち、いくつくらいなのかしら、と思う。

 私や谷本くんよりは上だろうけど……地に足のついてなさそうな感じは、私たちを上回っている気がする。

 どうか谷本くんの方へ並んでくれますように。

 祈るような気持ちで次のお客さんの接客開始。

 二十代半ばくらいの女性が、サンドイッチとレギュラーコーヒーを注文なさって、私はカウンター上の棚に置かれたレギュラーコーヒー用のカップを取り出すと、サンドイッチを入れた袋の側に置いた。

 谷本くんの方も私の方もあと1人ずつのお客さん。

 レジを通す内容によって時間のかかり具合もまちまちで、私はソワソワしてしまう。
 だってあの男女(2人連れ)が、レジのほうに近づいてくるのが見えたから。

 どうか私の方に当たりませんように!

 今まで合いそうにないお客さんに対して、そんな風に願うことはなかったのに、何故か今回だけは強く強く意識してしまった。

 何だかよくわからないけれど、第一印象からして最悪だったんだもの、仕方ないわ。

 白衣も脱がずにコンビニに立ち寄って、人目も(はばか)らずに女性とイチャイチャ。
 本当一番(いっちばん)嫌いなタイプの男性よ。


 それが、鳥飼(とりかい)奏芽(かなめ)という男に私が初めて出会ったときに感じたウソ偽らざる気持ち。
 きっと、今思えば生理的に受け付けない、っていうのに近かったんじゃないかな?って思う。
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