私のおさげをほどかないで!
 私はあまりの恐怖に男から離れるようにそっとベッドの向こう側に降りて、一歩ずつジリジリと距離をあけた。
 足首に取り付けられた足枷(あしかせ)が皮膚に擦れて、歩くたびにピリピリと痛んだけれど、そんなことを気にしている場合じゃないって思ったの。

 ややして背中に冷たい壁が触れて、それ以上さがれないって分かったのに、諦められないみたいに壁にピッタリ背中を付けて張り付く。

 と、男の背後で何かが床にぶつかるような音がして……次いでパタン……と扉が閉まる音がした。

 見ると、さっきまで持っていたはずの私のスマホが手に握られていなくて……私から遠ざけるために鎖の届かない所へ投げ捨てられたのだと分かった。
 そういうことをしたということは当然、男は私に近付く気満々ということだ。

 足に鎖までつけられている私は、正にカゴの中の鳥状態。

 どんなに頑張って逃げ惑ったとしても、必ず捕まってしまうだろう。

 そう思ったけれど、諦めるなんて出来なくて。

 万に1つでも可能性があるならば、私は綺麗な身体のままで奏芽(かなめ)さんと再会したい。
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