私のおさげをほどかないで!
***

「部屋も暖かくなってきたし、そろそろいいよね?」

 私との距離を詰めながら告げられた言葉に、背筋がゾクッとする。

 部屋が暖まっただなんて嘘よ。
 私、こんなに冷え冷えとした気持ちで、全身に鳥肌が立ってしまっているのに。

(りん)、どうしてベッドから降りてそんな隅っこに逃げたの? 大人しくベッドで待っててくれたらいいのに。ねぇ、僕を焦らして楽しい?」

 焦らしてなんていない。
 本気で嫌だから。本気で怖いから逃げてるだけなのに。何でそんなことも分からないの?

 それとも、分かっていて気づかないふりをしているだけ?

「嫌なの、来ないで……」

 男から目を離さないままに一生懸命拒絶の言葉を放ってみたけれど、まるで聞こえていないみたいにすぐには反応がなくて。

「……ほら、昔から言うよね? イヤよイヤよも好きのうちって」

 ベッドを回り込むようにして、私がいる壁際への距離を削りながら、今更のようにそんなことを言われて、私はふるふると首を振る。

「本気で嫌がってるって……思わないんですか?」

 絶対に捕まりたくない。

 男から視線を外さないままにジリジリと壁伝いに横スライドをして距離を取る私に、男がクスクスと笑う。

 何がおかしいの?
 私、ものすごく真剣に話してるのに。
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