私のおさげをほどかないで!
 足を踏み出すたびに左足に取り付けられた足枷(あしかせ)が皮膚を擦ってヒリヒリとした痛みをもたらす。

 歩くたびに鎖が床をこする乾いた音が鳴って……私は無力にも眼前の男に捕らえられているのだと自覚させられる。

「来ないで……っ」

(りん)、ワガママ言うのは感心しないな? 僕のこと嫌いとか……近付くなとか……今は例えそう思っていたとしても……ずっと一緒にいたら僕のこと、好きになるしかないと思うよ? どうせそうなる運命ならさ、今のうちから歩み寄る努力をしたら?」

 最初の関わり方が違ったなら、あるいはそんな未来もあったかもしれない。

 現に奏芽(かなめ)さんとの馴れ初めを思い出してみると、私、決して奏芽さんに良い感情は持っていなかったのだから。

 でも、奏芽さんとこの男には決定的に違うことがある。

 私を1人の人間として尊重してくれているか否か。

 奏芽さんはこの男みたいに、私のことを決して自分に都合の良いモノのようには扱わなかった。

 だから私、こんな自分本位な男のことなんて、絶対に好きになんてならない。例え世界にこの男と2人きりになったとしても。

「あなたは私のことなんて見ていない。あなたこそ、私を自分に都合のいいお人形さんぐらいにしか思ってないと思います!」

 今の私、すぐ近くで男からスタンガンを押し付けられているわけじゃない。
 同じ室内にいるとはいえ、今、私と彼との間には少なからず距離があるのだ。

 私はアンタなんかの思い通りにはならない!

 さっきまでただただ怖くてどうしたらいいか分からなくて震えているだけの小動物みたいだったけど、でも、私、無事に奏芽(かなめ)さんのところに帰りたい。

 そのためなら頑張れる!
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