私のおさげをほどかないで!
 それと同時。

 向こうのほうでガシャーン!と物凄い音がして、男がハッとしたように私の足にかけていた手を離して振り返った。

 私はそのことにホッとして、一生懸命男から遠ざかるように後ずさった。
 足がジンジンと痛むけれど、今のうちにこの足枷(あしかせ)と鎖を外せないだろうか。
 足首が少し腫れてきていて、輪っかが皮膚に食い込んできているようにも思えて。
 早く外さないと色んな意味で良くない気がする。

***

凜子(りんこ)! どこだ!?」

 ジャリジャリという硬いもの――先程の音からすると割れたガラスか何か?――を踏みしだく足音に混ざって、私の名を呼ばわる声。

「か……――、っ!」
 ――奏芽(かなめ)さんっ!!

 私はその声に、無我夢中で大声を出して答えようとして。
 けれど寸でのところで男にグイッと腕を引かれて立ち上がらされて、すぐさま後ろから口を押さえられて敵わなかった。

「――ん、んっ!」
 そのまま一生懸命叫ぼうと試みたけれど、声にならないくぐもった音が男の手の下から漏れるだけ。

 そのうえ鼻も一緒に押さえられてしまって、息が苦しくなってきて。このままだと窒息してしまうって思ったら、恐怖ですくみそうになった。

 けれどそんななか、私の声なき声に被さるように微かにサイレンの音が聞こえてきて、私は息苦しさに恐怖を覚えながらも悪夢の終わりを感じたの。
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