私のおさげをほどかないで！
　と、口と鼻を塞がれたままの私の首元に、ひんやりとしたモノが当てられる。

　私はその感触を知っている。例のペン型のスタンガンだ。

「凜(りん)、声をあげたりしたらどうなるか分かるよね？」

　耳元で低めた声でそうささやかれて、身体がビクッと震える。
　小さくうなずくと、ゆっくりと様子を窺(うかが)うように口元から手が外されて、私は喘ぐように息を吸い込んだ。

　――奏芽(かなめ)さんっ！　私、ここですっ！

　私は声にならない声で叫んだ。


＊＊＊


　男は立たせたままの私の身体に沿うようにスタンガンを這いおろしていきながら、私の足元にしゃがみ込んだ。

　何をしようとしているのか分からなくて悲鳴が漏れそうになるのを、唇をかみしめて懸命に押し殺す。

「――いっ！」

　痛む足首に男の指先が触れて、思わず声が漏れる。
　声を出すな、と言われていたのに声を出してしまったことに一瞬身構えたけれど電撃は襲ってこなかった。

　ややして腫れてきていた足首の圧迫がなくなって、ゴトリという音がした。
　その音に恐る恐る視線を下向けると、足枷(あしかせ)が外されていて――。

「凜(りん)が鎖つけたままじゃ、僕まで動きを制限されちゃうからね」

　立ち上がった男が再度私の首筋にスタンガンを押し当てながらそう告げてきて、この期(ご)に及んでもまだ、この男は私を連れて行こうとしているのだと思い至ってゾッとした。
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