私のおさげをほどかないで!
 私は奏芽(かなめ)さんを視界の端におさめたまま、ゆっくりと息を吐いた。

 奏芽さん、絶対に助けてくださいますよね?
 私、ほんの少し無謀なこと、してもいいですか?

 心の中で奏芽さんに問いかけて、でも、彼からの返事を待たずに即座に行動に移した。

 私は意を決して首に押し当てられたスタンガンをグッと掴んで……一生懸命自分の首元から離そうと頑張って――。
 足が痛くて踏ん張れなくて、結局スタンガンを握ったまま身体がぐらつく。

 男はまさか私がそんな暴挙に出るとは思っていなかったみたいで、束の間だけど反応が遅れたの。

 それはそうだと思う。

 今、男の意識は手負いの私なんかより、眼前の奏芽さんにあったはずだもの。

 でも、それもほんの一瞬。
 すぐにバチッていうあの音が聞こえて、私は衝撃が襲ってくることを覚悟してギュッと目をつぶった。

 でも……。
 聞こえてきたのはドン、っていう鈍い音と、それに続いて響いた、何かが床にぶつかる乾いた音。

 そうして、投げ出されて踏ん張った瞬間に走った足の激痛に転びそうになった私を抱きとめてくれる、大好きな奏芽さんの柑橘系の優しい香り。

「バカ! 無茶しやがって!」

 耳元で吐き捨てられた低音の声とは裏腹、奏芽さんが私を抱く腕が震えているのは気のせい?
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