私のおさげをほどかないで!
 と、奏芽(かなめ)さんが何かから守るみたいに私を抱き上げて立ち位置を変えると、抱え上げたときより数倍そっと降ろしてくれる。
 急に回転させられたことに驚きながらも、私は片足立ちのまま奏芽さんの腕越しに男の姿を垣間見る。

 男は奏芽さんに何かされたみたいで、いつの間にか床にうずくまっていて。いま正にフラフラと立ち上がるところだった。

 奏芽さんはそれを察して私を庇って下さったんだと気がついて。守られているという実感に、奏芽さんに縋る手に無意識に力がこもった。

 ふとこちらに向けられた顔。口の端から血が出ているところを見ると、もしかして奏芽さんに殴られた?

 抱きしめられていて奏芽さんの手元は見えないけれど、素手で……となると、奏芽さんも怪我とかしているんじゃないかと思って気が気じゃなくて。

 男はキョロキョロとあたりを見回すと、すぐに床――私たちの足元に転がったままのスタンガンを取ろうとして。

「あっ!」

 私が思わず声をあげたのより早く、それに気付いた奏芽さんが、タッチの差でスタンガンを遠くへ蹴り飛ばした。

 と同時に、やっと家の中に踏み込んできた数名の警官が男を取り押さえて、私はようやく心の底からホッとして身体の力を抜いたの。

 奏芽さんがそんな私に、「遅くなってすまなかった」って謝ってきて。私は小さく首を振りながら彼の腕に頬を擦り寄せて、そんなことないですという気持ちを伝える。
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