私のおさげをほどかないで!
 奏芽(かなめ)さんは私の左足首が腫れているのに気付いていらして、男が警察に取り押さえられたのを確認するや否や、私を横抱きに抱き上げて。

「ひゃっ」
 思わず変な声を漏らした私に、
「足、痛むだろ。すぐ抱き上げて(こうして)やれなくて悪かったな」
 って謝るの。

 男がどう出るか分からない状態で、私を抱っこするなんて無理に決まってる。
 奏芽さんの判断は間違っていないのに、何でそんな、申し訳なさそうな顔をするの?
 先程、立っていた位置を入れ替える際に一瞬抱き上げられたのでさえ私、ヒヤリとしたのに。
 あの時だって、私の足のことなんて考えずにクルリと回ることだって出来たはずなのに、緊急時でさえそんな風に私のことを気遣えてしまうところが彼らしくて。頼もしいと思うと同時に心配にもなったの。

「奏芽さん、助けに来てくださっただけで……十分幸せです。ありが、とうございます。……私、もうダ、メか……と……。だから謝らないで下さ……っ」

 奏芽さんの顔を見上げながらそう言っていたら、さっき鎖を手繰り寄せられて足首を掴まれたときの恐怖がじわじわと蘇ってきて。
 思わず奏芽さんの服をギュッと握る。
 身体が小さく震えて、こんなんじゃ奏芽さんに心配をかけてしまうとオロオロとしてしまうのにどうしようもなくて。

 絶対奏芽さん、そのことに気付いているはずなのに何も言わずにギュッと私を抱く力を強めてくれただけだった。
 私のこんな姿を見て、負い目を感じたみたいに更にごめん、とか言わないでいてくれることが、すごくすごく有難かった。
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