私のおさげをほどかないで!
 っていうか、カゴ持ってここに並んで、それ以外になんの用が!?とか思ったけれど、さすがにその言葉は飲み込んだ。

 近くに立たれると背の高さが際立って、何だかソワソワしてしまう。
 この人、180センチ近いんじゃないかしら?
 157センチのチビな私は、あまり大きな男性が好きじゃない。
 つむじとか見下ろされそうで何だか悔しいし、それに――。
 高校生の頃、背の高い男子に上から見下ろされて「下着(ブラ)見えてるよ」って下卑た笑いを浮かべられたことがある。
 それもあって、あまりに長身な人は苦手。

 たくさんの商品が入ったカゴを存外静かにカウンターに置いた彼に、私は内心谷本くんの方(あっち側)に行けばいいのに、と思いつつ……。
 営業用スマイルで「も、もちろんです」と答える。

 見た目、ガサツっぽく見えるのに、意外と優しくカゴを扱うんだな、と思ってしまって、危うく毒気を抜かれしまいそうになる。

 けど、勘違いしないでね?
 仕事だから引き受けたのよ?

 そんな風に斜に構える私を、いっかな気にした風もなく、「じゃあこれね」とてんこ盛りに商品が入れられたカゴを指差してから、
「ねぇ、キミ、新人さん? 今時おさげって珍しいけど……すごく似合ってると思うぜ。――あ。名前は……向井(むかい)さん?」
 とか。

 胸に付けた名札を見られたらしい。
 見られたのは名札のはずなのに、関係ない髪形のことをさらりと付け加えられたからか、胸自体を見られてしまった錯覚がして……ソワソワしてしまう。

 コンビニの制服は胸元なんて開いてないんだから大丈夫なはずなのに、さすがに自意識過剰な反応だよ。

 それとも眼前の男の声が思いのほか自分好みだったから、おかしくなっちゃった?

 正直な話、初対面のはずなのに臆することなくガンガン話しかけられて、私は戸惑いまくりだ。

 いっそ、「もう黙ってていただけますか!?」って睨みつけることができたらどんなにか楽なのに。
< 28 / 632 >

この作品をシェア

pagetop