私のおさげをほどかないで!
***

 本来なら奏芽(かなめ)さんも私も警察の人に事情を聞かれるはずだったんだけど、怪我をして憔悴した様子の被害者(わたし)が彼にしがみついて離れなかったから、概要だけ話して詳しいことは後日に、という話になった。

 奏芽さんが少しの距離さえ歩けそうにない私のために呼んでくださったタクシーで病院に行って、処置を受けたの。

 さきほど警察の方に、事情聴取は私がもう少し落ち着いてからにしましょう、と言われたことに、私は正直すごくホッとしていた。
 今はとにかく、奏芽さんと2人きりでそっとしておいて欲しい。
 1時間半余りの出来事だったとはいえ、囚われている間はそれよりもずっと長く感じられたし、出来ればしばらくはあのことを思い出したくなかった……。

 私はあの男から殴られたりはしなかったけれど、とにかく足枷(あしかせ)を取り付けられていた箇所の腫れが酷くて。
 鎖を引っ張られてつんのめった時に物凄い負荷がかかったからだと思う。
 青黒くなって腫れた足首に、私はそのときのことを思い出して恐怖に打ち震えた。

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