私のおさげをほどかないで!
Prologue
 一体なにがどうなって、私はいま大嫌いだったはずの彼とともにベッド(こんなところ)にいるんだろう。

「なぁ凜子(りんこ)。――髪、ほどくぞ?」

 ふたつ分けの三つ編み――いわゆる〝おさげ〟――は私のトレードマーク。

 それをほどかせろ、と私に馬乗りになっている男が言った。

 束ねられるくらい髪が伸びてから今まで、誰にもそれをほどいたところなんて見せたことない。

 おろし髪を見せるのは、自分のなかの女をアピールしているみたいで……何だか恥ずかしいと思ってしまって。
 子供の頃からずっと、私は人前に出るとなると慣れ親しんだ三つ編み姿しか披露したことがないのだ。

 小学生の頃、クラスの男子に髪の毛を引っ張られて、髪留めを外されたことがある。
 ほどけてほぐれたウェーブのかかった腰まで届く髪の毛に、私はすごく恥ずかしくてだらしない姿になった気持ちがしたの。

 一生懸命自分で髪を束ねてみたけれど、不器用だった私がやったそれはとても汚くて。
 帰宅後お母さんに「ボサボサでみっともない」って叱られて、すぐさま結びなおされた。
 それ以来、人前でおさげをはずしてはイケナイと言う想いは一層強固になった。

「こっ、このままでも……! っていうか、出来ればど、どこにもっ……さわらないで……欲しいですっ」

 そのことを思い出して、この()に及んで私はこういうことをするのはやはりやめておきませんか?と彼を必死で見上げたら、「却下。結んであったら引っ張りたくなるし、さすがにここまで来て手を出さないとか、そんな選択肢選ぶヤツがいたらアホだと思うわ」とにべもなく返された。
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